第700話 分身たちのお仕事

「なっ……分身だと!? しかも、同時にこんなにも大勢の人数を!?」


 豹耳族の男性の驚きを他所に、穴を掘る者、ガレキやゴミや穴に捨てる者、堀を作る者と分身を三つのグループに分けて、それぞれ行動させる事に。

 その一方で、壊れた柵の代わりに、俺が石の壁で村を囲っていく。

 もちろん、分身も石の壁を出す事が出来るのだが、そこまで自動行動でやらせるとどうなるか分からなかったので、それは俺が行う事に。


「す、凄い……あっという間に村がなおって行く」

「流石に、個々の家までは対応出来ないが、ガレキの除去くらいはやっておこう」

「あ、ありがとうございます」


 ひとまず、村の周囲を石の壁で囲い終え、穴掘りスキルを活用して分身たちが堀も作ったので、後はガレキの片付けを残すだけなのだが……へ、変な感じがする。

 この感じは……何故だ!? 自動行動を使用しているとはいっても、穴を掘るのと、その穴の中へゴミを入れるように指示しているだけなのに、どうしてアレな感じがするんだ!?


「にーに。どうしたのー?」

「い、いや。何でもないんだ」

「そうなのー? 何だか、辛そうだよー? 何かを我慢している感じがするー」


 村に着いてから、ディアナがずっと俺の傍から離れないこの状況で、暴発は非常にマズい!

 今すぐにでも分身を解除したいが、それはそれで作業が止まってしまう。

 どこかで行われているこの原因を止めさせないと!

 この感覚は、ミオ、ザシャ、モニカ、ファビオラ、グレイス、シアーシャの六人だな……って、ほぼ全員じゃないか!

 だが、周囲を見渡してみても、見える範囲でそのような事は行われていない。


「でぃ、ディアナ。今、皆が隠れんぼで遊んでいるんだ。一緒に探してくれないだろうか」

「隠れんぼ!? やるやるー! この村はウチの方が絶対に詳しいし、全員見つけるよっ! にーにもユーリちゃんも、来てー!」

「あぁ、頼むよ……で、出来るだけ早く」


 ディアナが俺の手を引き、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

 ……って、誰一人見つからないんだが。

 どれだけ本気で隠れているんだ!?


「にーに。大丈夫? ずっと下の方を気にしているけど……お腹が痛いの?」

「そ、そうなんだ。けど、大丈夫。隠れている皆を探すくらいは問題ないよ」

「うーん……痛いの痛いの飛んでけー!」

「あ、ありがとう。マシになったよ」

「良かったー!」


 でぃ、ディアナ。偶然だと思うけど、変な所を触らないように。

 それから、人の家の屋根に上がったり、木の上を見てみたり、石の壁の外側を確認してみたり。


「なかなか見つからないねー」

「そ、そうだな……っ!」

「どうしたの? にーに、大丈夫!? また苦しいの!?」

「いや、大丈夫だ。大丈夫だから、さすろうとしないでくれ」

「本当に大丈夫? ウチの家で休む? ちょっと壊れてるけど」


 大きな波が来て、ディアナに心配されるが、何とか耐えた。

 だが、本当に早く何とかしなければ!

 ……って、待てよ。

 よく考えれば、隠れんぼうをしたい訳ではない。

 これを止めたいのだから、分身に視界を切り替えれば良いんだ。


「ディアナ。少しだけ分身たちの様子を見てくるから、少し待っていてくれないか?」

「ん? にーにの分身さんなら、そこでお片付けをしているよー?」

「いや、出した分身と数が合わないんだ。おそらく、隠れているミオたちと一緒に居ると思うから、分身の様子を見れば、どの辺りにいるかのヒントに……」

「にーに、ズルはダメー! ちゃんと見つけるのー!」


 しまった。隠れんぼうという言い方をしてしまったせいで、ディアナが純粋に見つけようとしている。

 か、考えろ。

 こうなったら、何とかしてミオたちを見つけるんだ!

 ……そうだ。普段、ミオたちはアレな時に声を押し殺したりしない……と思う。

 それなのに声が全く聞こえないし、何より豹耳族の男性ばかりが居るこの村で、普通に見えてしまう可能性がある場所でそんな事をしないはずだ……たぶん。

 そこから考えられるのは……


「ディアナ、ユーリ。こっちだ!」

「にーに、わかったの?」

「おそらくな。来てくれ!」


 急げ……急ぐんだ!

 ディアナの手を引き、ユーリを背中におんぶしながら村の外へ。

 石の壁の外側にある、分身たちが作った堀の中を順に見ていくと、一部異様に暗い場所があった。


「ここだっ!」


 暗い場所に飛び込むと、ザシャの出した闇の中で、女性たちと分身たちがやっぱりアレな事をしている。

 対象が誰かわかれば、個別に解除していけるので、急いで周囲に居る分身を解除したのだが……モニカが居ないっ!?

 そして、アレの感覚が続いていて……もう、ダメだっ!


「ん? にーに。何か美味しそうな良い匂いがするー! 何だろー!」

「な、何なんだろうな……」


 急遽、結衣が頑張ってくれたが、鼻の利く獣人族のディアナがずっと俺の周りをクンカクンカと……モニカは何処にいるんだぁぁぁっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る