挿話160 任務を遂行するオティーリエ
「よっ……と」
「な、何事だっ!? 扉が突然……これは、姿を失った者の仕業かっ! おい! アイツを呼んでこい!」
ノブを少し強めに回すと、簡単に扉が開いたんだけど、中からすぐに怒声が聞こえてきた。
流石は本部と言うべきか、見つからないように扉から入ったのだけど、人が大勢いるみたいで、あっさりバレたみたい。
だったら、もう遠慮する必要はないわよね。
「はぁっ!」
「誰かはわからないが、開き直りやがった! アイツはまだかっ!? このままじゃ、店が潰されるぞっ!」
アイツと呼ばれているのは、おそらく私と同じ姿を奪われた者だと思う。
アレックスたちの所へ行かれてしまうと厄介なので、ここで暴れて私が倒す!
という訳で、当初の予定ではモニカたちを見つけるまでは密かに行動するつもりだったが、方針転換で大きく暴れ回る。
とはいえ、壁は手前に壊すけど。
奥にモニカたちが居たら大惨事だし。
「クソがっ! おい、誰か攻撃魔法だ! ここから先、通りまで凍らせろ!」
「ですが、ボスが不在の時にそんな事を……」
「このまま店を破壊される方がダメだろうがっ! 殺されてぇのかっ!」
「わ、わかりました! ≪パーマフロスト≫」
奥から魔力の動きが見えたけど……普通の人間が魔法を使えば、こんなものよね。
アレックスが異常なだけで。
アレックスの濃厚な魔力が含まれたアレの事を思い出していると、奥からこちらに向かって、ピキピキと床が凍っていく。
まぁ、その……うん。この程度の氷で私を何とか出来ると思ったのだろうか。
「えい」
迫ってきた氷を軽く踏むと、簡単に魔力が消滅する。
「えっ!? こ、氷魔法が消滅した!?」
「何をしているんだっ! 本気でやれっ!」
「違うんです! おそらく、何か対抗魔法が放たれたんです!」
対抗魔法……まぁそういう事にしておいてあげよう。
とはいえ、いい加減面倒なので、一気に奥まで行き、騒がしい二人を外に向かって投げ捨ておいた。
「……って、あれ? この奥……大勢の気配がある」
うるさい二人がいた部屋の向こう側に、大勢の……軽く十人を越える気配がある。
これは……ドワーフたちなのか、それとも商会の奴らなのか。
前者だと良いなと思いながら壁を引っ張ると……やった! モニカとドワーフたちだ!
「な、何事だっ!? 皆、下がるんだ」
「モニカ、私よ。オティーリエよ」
「え……なるほど。助けに来てくれたのか」
「えぇ。ちょっとここで待ってて。ミオを連れて来るから」
残念ながら、突撃は出来るけど、大勢の誰かを護りながら移動するというのは、絶望的なほど私に向いてない。
やはり一人で来なくて良かった。
急いでミオを……というか、全員に来てもらう。
ミオが結界を張ると、フョークラが男性だけに効くという毒薬を周囲に散布してくれた。
「すまない。何処かに私の剣があると思うのだ。鎧はともかく、剣は騎士の命。少しだけ探してくる」
「待ってー! そういうのは、マリーが得意だよー! えーい!」
マリーナが触手をあちこちに伸ばし、壊れた壁から別の部屋へと伸びていく。
「な、何だこれはっ!?」
時々声がしてきたところには、私が出向き、軽く殴っておく。
ドワーフたちを連れ出している時に、後ろから来られたら面倒だからね。
まぁミオが結界を張ってくれているから、基本的に大丈夫だと思うけど。
「あ、見つけたよー! ……はい、どうぞ」
「すまない。ありがとう」
「あと鎧もあったよー!」
マリーナから装備を受け取り、モニカが嬉しそうに身に着けた。
ちなみに、元々この本部に囚われていたドワーフの女性たちが居たそうで、十六人だったはずのドワーフの女性が三十人近くになってしまっている。
ひとまず、どこか安全な場所に連れていかなければならないんだけど……
「オティーリエよ。こちらは我に任せるのじゃ。それよりも、アレックスにモニカたちを助けた事を伝えるのじゃ。それさえ伝えれば、あとはアレックスが全てやると思うのじゃ」
「あ、確かに。アレックスが待っているだろうし……ちょっと行ってくる!」
ミオに言われ、急いで外へ。
もう人質は居ないので、少し開けた場所で竜の姿になると、南へ飛ぶ。
アレックスは魔力で位置がわかるからね。
ふふっ、アレックス。ご褒美よろしくねー!
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