第847話 大人しく従うアレックス
「おい、奴隷商人野郎! とっとと歩け!」
騎士団に奴隷商人と間違われ、両腕と腰を縄で括られて歩いて行く。
この程度の縄なら普通に引き千切れるし、口を塞がれている訳でもないので、その気になれば簡単に脱する事が出来る。
だが、モニカとブレア、ドワーフの女性たちが何処かへ連れて行かれてしまっているので、オティーリエから連絡があるまで、大人しくしていよう。
「しかし、お前。奴隷売買だなんて非人道的な事をよくやれるな」
「……」
「おい、何とか言えよ! どうして奴隷売買なんて出来るんだ? このクソ野郎が!」
何とか言えと言われても、俺は奴隷売買なんてしないし、むしろ止めさせようとしていた側だからな。
何も言える事がないので黙っていると、
「何とか言えって言ってるだろっ!」
俺のすぐ後ろを歩く騎士が声を荒げる。
はっきり言って、怒りをぶつける相手が間違っているのだが、怒りに任せて捕らえた者を殴ったりするような奴でも無さそうだし、正義に燃える騎士のようなので不問とする事にした。
「……くっ! どうして、蹴った俺の脚の方が痛むんだ!? こいつは蹴られた事にすら気付いていなさそうだし」
「……バカだな。鎧を蹴ったんだろ。こういうのは、鎧の隙間だとか、肌が見えているが目立たないような場所を浅く斬るんだよ」
「……あぁ第一騎士隊の副隊長とかは、こういうのにうるさくて面倒だしな。それより、これで……あれ? おかしいな。結構ザックリやってやったはずなのに、全く血が流れていないぞ?」
後ろで別の騎士と小声で何か話し始めたが、おそらく部外者である俺に聞かせられない機密情報なのだろう。
口は悪いが、悪を許さぬ正義感と情報管理をしっかりした、良い騎士のようだ。
「おい! お前……何か防御か回復系のマジックアイテムを持っているな? 出せ!」
「いや、そう言った類の物は持っていないな」
「白々しい……いや、待てよ。確か、あの宿にも防御壁が張ってあったな。……そうか! あの馬車の中の誰かが、防御系のスキルの使い手なのか! おい、そうだな!?」
「まぁそれはそうだな」
ミオは結界よりも、シェイリーたちを召喚する方が本来の能力だと言っていたが……まぁあのスキルは本当の緊急時以外使用禁止としたので、防御スキルが主体と言っても差し支えないだろう。
「しかし、そんな事を聞いてどうするんだ? お前たちがどうやって宿から俺たちの仲間を連れ去ったのかは知らないが、馬車に居る仲間に手出しはしない方が良い……というか、出来ないと思うが」
「はっ! そんなの……いや、お前に教える義理はねぇな。だが、一つ言っておいてやる。今のお前は、仲間の防御スキルで調子に乗っていられるかもしれないが、それも王都までだ。その後はある事ない事、お前に濡れ衣……もとい尋問してやるからな」
濡れ衣……いや、今のは言い間違いだろう。
この騎士は良い騎士のはずだからな……たぶん。
それから暫く歩き、何事もなく王都へ。
「クソッ! どれだけ強固な防御スキルなんだっ!」
後ろの騎士がよく分からない事を叫んでいるが、門を潜り、大通りを突き進んで大きな建物へ。
見た感じ……やはり牢獄だったか。
だが牢には入れられず、先ずは取調室のような場所へ。
小さな……四人入るのがやっとという部屋に、小さな窓と扉が一つ。
依然として縄が掛けられたまま壁際に立たされると、
「ここは、俺たち第四騎士団しか居ねぇ! 遠慮なく血祭りに上げてやるぜっ!」
正面から騎士の一人が殴りかかってきた。
とはいえ、殴られたくはないので、軽く避けると、
「てめぇっ! 避けるんじゃねぇっ! 仲間がどうなっても良いのか!」
中々に苛立たせてくる。
とはいえ、モニカたちの事を出されると抵抗出来ないので、次は素直に拳を受ける事に。
「ふっ……おらぁっ! ……ぐはぁっ! くそっ! 顔面にまで防御スキルがっ!」
何故か殴ってきた騎士が痛そうにしている。
……こいつは何をしているんだ?
「だから言っただろ? そいつには、まだ手を出すなって」
「うるせぇっ! それより、アレは持って来たのか?」
「あぁ、事情を説明して隊長から貰ってきたぜ。……ありとあらゆるバフを無効化するマジックアイテムだ。一度しか使えないくせに、俺たちの年収より高いが……またメリナから貰えば良いだろ」
ん? 今、メリナ商会の事を言わなかったか? と思った直後、騎士たちが部屋から居なくなり、部屋に置かれた白い珠が光を放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます