第675話 砂漠の移動

「アレックスさん、着きました! ここが私の村です!」


 羚羊耳族の女性に案内してもらい、メーズの村という所へやって来た。

 ラマスの街から南西に向かって来たのだが、ディアナと並んで歩いているだけで、おんぶしているユーリ以外の女性たちが皆遅れ始め……結局、小柄なミオを抱きかかえ、体力の無いシアーシャをファビオラに運んでもらう事になってしまったが。


「わ、私も……私も抱っこして欲しかったです」

「ふふふ……これは、ご主人様による責めのプレイ。すなわちご褒美……」

「とりあえず、全員体力を付けた方が良いんじゃないか? 確かにアレックスとディアナの歩く速度は早めだったけど、ついていけない程ではなかったぞ? あと、モニカは……暑さで頭がやられてないか?」


 村に着くと、グレイスがその場にしゃがみ込んでいじけだし、モニカは再び服を脱ごうとする。

 そして、そんな二人をザシャが呆れた様子で見ているのだが……とりあえず、モニカを止めようか。


「アレックスさん! 本当にありがとうございました! 何も無い村ですが、是非家に寄ってください! すぐそこですので! あ、でも、念の為家が片付いているか確認してきますっ!」


 モニカの動きを止めている内に、羚羊耳族の女性が走り出し……あ、本当にすぐそこの家だった。


「しかし……西大陸へ来て、これで四つ目の街や村か。ずっと内側に向かって進んでいるのに、砂漠から変わる気配がないな」

「アレックスよ。陸地の旅だと、こんなものなのじゃ。今まで、レヴィアが高速で運んでくれていただけで、むしろあれが異常なのじゃ」


 独り言をミオに突っ込まれ、なるほど……と反省する。

 北大陸もかなり広い場所ではあったが、海と河でレヴィアが頑張ってくれていたからな。


「とはいえ、我も砂漠を歩くのは辛いのじゃ。アレックスは何やら歩き易くなるスキルを得たみたいじゃが」

「そうみたいだな。詳しい事は、シェイリーに見てもらわないと分からないが」

「そこで、この砂漠の移動を楽にする為、我に考えがあるのじゃ」

「そうなのか? グレイスとシアーシャが辛そうだし、是非教えてくれ」

「うむ。それはじゃな……」


 ミオが説明し始めようとしたところで、


「アレックスさーんっ! お待たせしましたーっ! ママも、恩人であるアレックスさんにお礼がしたいと言っているので、是非来てくださーいっ!」


 羚羊耳族の女性が戻ってきた。

 ミオの話も気になるが、家の中に入れてもらった方がグレイスやシアーシャが休めるだろうと、ひとまず移動する事に。


「ママー! この人間族の人が、私を助けてくれたのー!」

「まぁ! この度は、娘を助けていただき、本当にありがとうございました」

「いえ、人として、またパラディンとして当たり前の事をしたまでですので、お気になさらず」


 家に入ると、母娘でそっくりな……というより姉のように見える女性が深々と頭を下げ、お茶をいただく事に。

 これがもっと遅い時間だったら食事を用意されてしまったかもしれないが、白虎救出の為に次の街へ行きたいので、これで良かったと思う。

 暫く、救出時の話などをしていると、話が途切れたところで、突然ミオが口を開く。


「ところで……この村も、やはり陽が出ている内は、男は地下に居るのか?」

「はい。ただ、私の夫は娘が幼い頃に離婚してしまっておりますので、おりませんが」

「ふむ、わかったのじゃ。では、このアレックスに娘を助けた礼をしてもらいたいのじゃが……」


 って、ミオは何を言いだすんだ!?

 人助けに謝礼なんて必要ないぞ!?


「アレックスよ。まぁ待つのじゃ。礼と言ったが、この母親にも悪い話ではないのじゃ。もちろん、我らにも」

「あ、あの、私は何をすればよろしいでしょうか。娘を救ってくださった恩人ですし、私に差し上げられるものであれば、何でも差し上げます」

「うむ。では、そうじゃな夕方まで……この村の男たちが地上へ戻って来るまでの間、少し手伝って欲しい事があるのじゃ。あと、休憩場所として、この家を少しだけ貸して欲しいのじゃ」

「わかりました。私も、この家もお好きに使ってください」


 ミオの言葉に羚羊耳族の母親が大きく頷くが……ミオは何をする気なんだ!?

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