第208話 アレックスと分身が分身

「とりあえず、ここ……かな」

「ありがとうございます。ちなみに、あちらの森の木は使わせてもらって大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。万が一、木が足りなくなるような事があったら言ってくれ」


 俺としては、東の休憩所をそのまま活用したかったのだが、水路がここまで来ていない事もあり、北エリアに兎耳族の家を建てる事にした。

 ラビット・ナイトのピエラに三人妹のが居て、二人はグラップラーで腕力があり、一番上の妹がノーラと同じ大工のジョブを授かっているという話だったので、家造りも任せる。

 とはいえ、ゴレイムやノーラに手伝ってもらうし、俺も石の壁の拡張と、兎耳族たちの為の畑を作るが。


「家を建てる時は、あの穴の直線上は避けてくれ。地下洞窟へ続くトンネルがあるんだ」

「なるほど。この地下に洞窟があるという事は、地下倉庫なども作らない方が良いですね?」

「そうだな。少しくらいなら大丈夫だと思うが、深いのは止めておくべきだろう。いきなり、家が陥没して、魔物が出る洞窟に転落されたりして欲しくないからな」


 一応、注意事項として地下洞窟の事を伝えておいたが、洞窟までかなり距離があるので大丈夫とは思う。

 あと、シェイリーが作ってくれた森周辺の石の壁を無くし、森へ行ける様にもしておいた。

 ……今度シェイリーに会ったら、森を広げられないか聞いてみようか。

 リディアに手伝ってもらって、北エリアに水路を繋げ、ニナの協力の元、兎耳族たちの風呂も作った。

 家は未だ簡易な仮の物しか出来ていないが、大工も居る事だし、ゆくゆくはちゃんとした家を建てるだろう。


「皆さん。夕食の準備が出来ましたよー」


 一先ず、今日はリディアとエリーが兎耳族たちを含めた分の夕食を作り、皆で食事を済ませ、それぞれの自己紹介などを行う。

 ちなみに、今後の食事については、兎耳族のオレンジ髪の少女ペルラがコックのジョブを授かっており、そのスキルで火を起こす事が出来るのだとか。

 森が傍にあり、枝を集めれば料理が出来るそうなので、ニナが幾つか調理器具を作り、食事についても解決した。

 また、ペルラの妹二人が裁縫師というジョブで、服を作れるそうなので、この地に住む代わりに、俺たちの服も作って欲しいと依頼し、ある意味一番の問題となる時間が訪れる。


「では、そろそろお風呂ですね」


 ついにこの時が来てしまった。

 とりあえず、人数が多すぎるので分けて入るしかないのだが、


「ボクはお兄ちゃんと一緒に入るのー!」

「ニナも、お兄さんと一緒に入りたいなー!」


 昨日居なかったせいか、ノーラが絶対に俺と一緒に入ると言って聞かず、ニナも加勢する。

 その一方で、


「おにーさん。私ぃ、そろそろ限界なのぉー。早く搾ってぇー」


 ボルシチがミルクを絞って欲しいと迫ってきた。


「す……凄いな。……彼女は牛耳族? なるほど。それでか……まぁこれは負けても仕方がないか」


 パメラが自分の胸を寄せて上げながら、悔しそうにしているのだが、それを見たリディアやツバキが……こほん。うん、触れないでおこう。

 仕方が無いので、あくまで搾乳の為……変な事をしたら分身を消すと予め断り、ノーラたちと風呂へ入っている間に、分身の自動行動でボルシチのミルクを搾る事に。


「≪分身≫……えっ!? ど、どうなっているんだ!?」


 いつものように、サクラから貰った分身スキルを使ったはずなのだが……何故か分身が三体居る。

 俺は普通に分身を使っただけで、他のスキルは使っていないぞ!?


「アレックス。この沢山居る兎耳族の女性たちから、何かスキルを貰ったからじゃないの?」

「う……まぁ、そうなんだが、またシェイリーに調べて貰わないといけないな」


 いつもならエリーがジト目を向けて来そうなのだが……そうでもないな? 予めメイリンから聞いていたからか?

 何故かエリーが不機嫌ではない事に首を傾げて居ると、


「あ……そう言えば、アレックス様は私たちのスキルを使えるようになるんでしたっけ」

「あぁ。とはいえ、各ジョブにつき一つだけで、しかも何が使えるようになるかは、俺にも分からないんだがな」


 月魔法士というジョブだと行っていた、銀髪の兎耳族のプリシラが口を開く。


「私たち月魔法士は、夜しかスキルを使えませんが、その中の一つに、こういうスキルがあります……≪影分身≫」

「おぉ、シノビの分身スキルと同じだな。プリシラが二人になった」

「分身スキルというのは存じなかったのですが、見ての通りで、本体と同じ動きをする実態を持つ影を作り出します。もちろん、本物と感覚などを共有しておりますよ」


 話を聞くと、基本的にサクラの分身と同じらしい。

 唯一違うのが、あくまで影なので、本体と同じ動きしかしないという事か。

 俺の動きをする影分身と、自動行動で動く俺の分身と同じ動きをする影分身……ややこしいが、今後は分身スキルを使うと四人になるようだ。


「じゃあ、とりあえず俺たちは風呂に行って来るよ」


 俺とノーラ、ニナとユーディットに、ムギと兎耳族の子供たちで風呂へ行き、分身に自動行動でボルシチのミルク搾りをしてもらう。

 ちなみに、俺の影分身は食事をしていた仮の小屋の中へ置いて来たので、何もしていない場所で身体を洗ったりする動きをしているのだろう。

 ……暫くすると、分身の影分身から、ボルシチの胸とは違う感触が伝わってきた。

 ノーラとニナに抱きつかれながら湯船に浸かり、俺の影分身の視線から様子を伺うと、自動行動で搾られるボルシチの隣で、分身の影分身からモニカが搾られている。

 俺の影分身も、エリーやパメラたちが何故か取り囲んで居るし……何をしているんだよっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る