挿話28 地獄の夜を過ごした勇者ローランド

 痛い……前も後ろも痛い。

 女なのは言動だけじゃねーか! 見た目通り男で、物凄いのが付いてるだろっ!

 おまけに、このゴリラは俺を抱き枕にして爆睡していたが、俺は恐怖で一睡も出来なかった。

 どれだけ抵抗しようとも、あの太い腕で押さえつけられて逃げる事も出来ず、化物みたいな体力と精力で何回も俺の尻……いや、もう止めよう。思い出したくない。


「どうしたの、ダーリン? まだ緊張してるのぉ? あんなに何回もシたのに」

「……」

「仕方が無いなぁ。じゃあ、また舐めてあげるね。元気になったら、私のここに……」

「おい、やめろっ! やめてくれっ! もう出ねぇよ……アッー!」


……


「おはようございます。ローランド殿。昨日はお楽しみだったようですな」

「ぐふふ……そうなのぉー! ローちゃんったら、何度も私の中に……きゃっ」

「はっはっは。まぁ双方合意の上であれば、恋愛を止めろという訳にも行きませんな」


 ダニエルとハンナが朗らかに笑っているのだが、コイツら……本当に殺してやろうか。


「おい、オッサン。ちょっと来い」

「えーっ!? ローちゃん、私じゃなくて、ダニエルさんに何の用なのー!?」


 ゴリラ……もといハンナを無視してダニエルを少し離れた場所に連れて行く。


「おい! 約束が違うぞっ!」

「何の事でしょう? ちゃんと女騎士をパーティに入れましたが?」

「どこが女だっ! 色々と言いたい事が山の様にあるが、一番問題なのが、あのゴリラ……アレが付いてるじゃねーかっ!」

「……? 胸……はあって、当然かと思うが?」

「違ーよっ! 下だよ下っ! アイツ、男じゃねーかっ!」


 暫くダニエルが硬直し……コイツも知らなかったのかよ!

 というか、見たら分かるだろっ!


「えーっと、という事は……ローランド殿は男性と寝た……と。あ、新しい世界に行けて良かったです……な」

「ふざけんなっ! 俺は襲われたんだぞっ! あの怪力ゴリラにっ! 俺の尻……どうしてくれるんだよっ!」

「≪ミドル・ヒール≫……こ、これで貴殿の尻は治ったかと」

「そういう問題じゃねーんだよっ! 俺の心がズタボロなんだよっ!」


 一晩中、無理矢理ゴリラに挿れさせられたり、ゴリラに挿れられたり……最悪だ。

 とりあえず、ゴリラを本物の女性に交代してもらおうと思った所で、


「ダーリン。お話が長いわよーっ! ゴードンちゃんが来ちゃったじゃない」

「お待たせしましたっ! 遅くなっちゃって、ごめんなさい」


 ゴリラとゴードンが現れた。

 ゴリラに比べれば……いや、そこらの女と比べても、ゴードンちゃんが天使に見える。

 ……って、俺はノーマル……ノーマルなんだぁぁぁっ!


「って、痛い痛い痛いっ! 止めろっ!」

「やだ、ダーリンったら。ちょっと抱きしめただけで照れちゃって」

「照れてるんじゃねーよっ! 骨が折れるって言っているんだっ!」


 ゴードンちゃんを眺めていたら、突然ゴリラが抱きしめてきて……コイツは一体何なんだよっ!


「あー、まぁパーティ内の仲が良くて何より。一先ず、最初にこのパーティの目的を、ローランド殿にお教えししよう」

「おい。その前に、このゴリラを何とかしろっ!」

「私はダーリンとずっと一緒なのーっ!」


 いや、さっきより締め付けがキツい!

 本当に折れる……助けてくれっ!


「先ず勇者の使命は、我々人間と敵対する魔族の王――魔王を倒す事。これは、前にも話しましたな」

「おい……俺の話を無視するなよ。コイツを何とかしてくれっ!」

「ですが、この魔王を倒そうと思っても、普通に戦ってはまず勝ち目がありません」

「無視して話を進めるなっ!」

「そこで、最初に我々がすべきことは、この世界を守る神獣を復活させる事となります」


 くっ……ダニエルめ! ゴリラが女では無かった――約束を反故にしたのを突かれるのが嫌だからか、完全に無視しやがるっ!

 というか、何だよ神獣って。そんなの聞いた事がねーよっ!


「青龍、朱雀、白虎、玄武……四体の神獣が居るのですが、それぞれ魔族領に封じられているので、先ずは魔族領で生き残れるだけの力を身に着ける必要があるのです」

「……はぁっ!? 魔族領だとっ!? ふざけんなっ! そんなの死にに行くのと同義じゃねぇかっ!」

「我々が居るので大丈夫です。私もハンナも神聖魔法を得意としていますので、ローランド殿が全力で戦えるように支援します」

「いや、支援するって言っても、相手は魔族とかだろ!? 無理に決まっているだろっ!」

「尚、我々の最初の目標は、世界の南端にある第三魔族領です。ここでは、人が魔族に奴隷扱いされていますので、一刻も早く解放しなければなりません」


 とりあえず、マジで俺の話は無視するんだな。

 魔族なんて、戦った事も無いし、戦いたいとも思わない。

 絶対に勝てないって。


「……あ。確か噂で、第四魔族領は何も無い更地だと聞いたぞ? そっちの方が、まだ楽じゃねーのか?」

「その通り、第四魔族領は何も無い地です。しかし、あそこはシーナ国に隣接しており、シーナ国の国王が冒険者ギルドへ対応を依頼していますからな。我々よりもギルドを選んだのです。後回しで良いでしょう。……まぁ冒険者ギルド如きが魔族領を解放出来るとは思えませんが」


 こいつら正気か!? 第三魔族領なんて、俺は絶対に行かないからなっ!

 しかし、シーナ国か。

 ここから遥か東の地にある大国だよな。

 黒い噂が沢山ある怪しい国だが、そんな国の国王からの依頼だなんて、大丈夫なのか? まぁ俺には関係の無い話だが。


「ぐふっ……ダーリン、安心して。私が絶対にダーリンを守ってみせるから」

「いや、俺はお前が一番怖いっ! というか、魔族領よりも先に俺を解放してくれっ!」

「お、お二人は仲が宜しいんですね」


 ち、違うぞ、ゴードンちゃん。

 俺は被害者であって、少しも仲は良くない……って、ゴリラは俺の股間を触るなぁぁぁっ!

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