第86話 新しいスキルの実験

「改めて、はじめまして。メイリン様にお仕えしているサクラと申します。まさか魔族領へ来る事になるとは思っていませんでしたが、宜しくお願い致します」


 家に戻って来て、リディアが用意してくれていた昼食を食べながら、サクラさんの自己紹介と、皆の紹介をしていると、


「アレックスさん。小屋の方までお迎えに行った際、エリーさんの人形が沢山増えていましたね。しかも、こちらのサクラさんの人形までいましたが」

「あー、うん。ちょっと、色々とあって……」

「その色々……後ほど、私にも教えてくださいね?」


 隣に座るリディアが可愛らしい笑みを浮かべつつ、テーブルの下で変な所に手を伸ばして来た。

 リディア!? リディアーっ!? 正面にノーラが座っているから、そういう事は夜まで待ってくれ。


「ふふ……リディアとやら。そう怒るでない。このサクラ……中々凄い技を持っておる。我は気に入っだぞ。とはいえ、もちろん本命はアレックスだがな」

「そんなに凄いスキルなんですか?」

「うむ。我の意識が飛びそうになった程だ」

「シェイリーさんの意識を飛ばす……戦ったのですか?」

「そうだな。激しい事になった……だが、その結果、アレックスが面白いスキルを得る事になったぞ」


 送ったついでに昼食を……と誘ったシェイリーと、地下洞窟に行っていないリディアの話が全く噛み合っていない。

 いや、噛み合うはずもないし、ノーラが居るから説明も出来ないのだが、それよりも面白いスキルとは何なのだろうか。


「シェイリー。その面白いスキルとは?」

「ふふっ……分身スキルだ」

「えっ!? ど、どういう事? アレックス殿……いえ、アレックス様が拙者のスキルを?」


 慌てるサクラさんに、キスでスキルを得られる事を説明し、早速使ってみる。


「≪分身≫……くっ、これは……」

「アレックス様! 目を閉じてください。分身スキルは、慣れるまでかなりの修行を要します。目を閉じれば、一先ず大丈夫かと」


 分身スキルを使用した瞬間、右目と左目で違う景色を見ているかのような感覚に襲われ、目眩がしてしまった。

 だが、サクラさんの言葉に従って目を閉じると、それだけでかなり楽になる。


「慣れれば、本体と分身とで別々の行動を取る事も可能ですが、それには数年の歳月を要するかと」

「つまり、暫くこのスキルは使えないという事か?」

「いえ、今でも単純な動作は出来るかと。それに、本体と分身は感覚を共有しているので、その……夜に活躍すると思います」


 そう言って、サクラさんが説明の為に幾つかの実験をしてくれた。

 例えば、分身の俺をくすぐると、俺もくすぐったいし、分身の口に食べ物を入れると、俺も食べている気がする。というか、分身が消えた時に、実際に食べた事になるそうだ。

 一通り実験が済んだ所で、分身スキルを解除すると……確かに、先程分身が食べさせられていたパンで、少し腹が膨れたような気もする。


「つまり、分身がダメージを負えば、本体もダメージを負います。一先ず、今時点では夜以外に使うのは避けるべきかと」

「へぇー。分身っていうけど、実際はアレックスが二人になるって感じなのね?」

「そうですね。監視の任務などに就く際は、拙者の代わりに分身が用を足したりすれば、一切身動き不要ですからね」

「なるほど。そういう物を出す事も出来るのね」

「えぇ。おそらく、アレックス様のアレも、普通に出るかと」


 いや、エリーとサクラさんは何の話をしているんだよ。

 ただ、サクラさんみたいに、二人分の動きが出来るようになれたら、かなり使えるよな。

 残念ながら、今は分身を出して目を開ける事すら出来ないが。


「ねぇねぇ。さっきから皆、お兄ちゃんのスキルを夜に使うって言っているけど、何の事なのー?」

「はっはっは。ノーラとやら。その身体では、色々と難しいであろう。先ずは、我と一緒に後ろから……」

「ストーップ! ノーラ、夜っていうのは……その、俺が寝ている間に、分身が働いてくれたら楽だよなーって話だ。それ以上の意味は無いから、気にしないように」


 シェイリーは、ノーラに何を教えようとしているんだよっ!


「えぇー、夜は普通に寝ようよー。というか、最近ボク、お兄ちゃんと一緒に寝てない気がするんだけど」

「そ、そんな事は無いとおもうぞ?」

「そうかなー?」

「それより、ノーラ。また人形が増えてしまったから、また家を……って、そうだ。もう一人、紹介しないと。皆、昼食は済んでいるよな? ちょっと来てくれ」


 洞窟へ行っていないリディアとノーラを連れて家の外に出ると、


「えっ!? あ、アレックスさん!? どうして壁の中にゴーレムが……」


 リディアが魔法を使う為か、俺の手を握り、怯えたノーラが俺の背中に隠れる。


「待ってくれ。こいつは、ゴレイム。俺とメイリンの指示に従うゴーレムだ。色々と試してみたが、俺たちを襲ったりはしないから、安心してくれ」

「……そ、そうなんですね。これもメイリンさんが作ったんですか?」

「いや、地下にあった村の跡に居たんだ」

「なるほど。ちなみに、このゴーレムは、何を糧として動いているのでしょうか?」


 リディアが警戒しながらゴレイムを見ているが、確かに何を動力源としているのかは、俺も知りたいな。


「シェイリー。このゴーレムは、どうやって動いているか分かるか?」

「うむ。地下の方から魔力が流れて来ているのは感じるぞ。小さな人形たちは食事を魔力に変換しているが、このゴーレムは違う。おそらく、地下に魔力の源となる装置があるのだろう。ただ、もっと北東の方から感じるから、西にある村の跡とは別の場所にあるのだろうな」

「なるほど。それも黒髪の一族に――メイリンに関連するのであれば、一度探索に行くのも手だな」


 シェイリーの話から考えられるのは、あの村以外にも黒髪の一族の村や施設が地下にあるという事だ。

 まぁ考えてみれば、一番近くにあると言われている街が見えない程広い場所なのだから、有って然るべきな気もする。

 いろいろと話を聞いていると、サクラさんはシノビというジョブで、調査や罠の発見などが出来、ダンジョンの探索に必須と言われているシーフの代わりが務まる程らしい。

 それならばと、新たに増えてしまった人形たち――俺の人形五体と、エリーの人形三体、サクラさんの人形二体――が生活する為の準備が整ったら、再び洞窟を探索してみよう。

 そんな事を考えながら、かなり広くなっている東エリアを、更に開拓する事にした。

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