第896話 迷子の一行

 三階へ上がると、ある部屋に皆が集まっていた。


「どうしたんだ?」

「アレックス様! こちらがデイジー王女の部屋で間違いなさそうなのですが、肝心の本人がいないのです」


 フョークラによると、クローゼットに入れられている服や、部屋の趣味に、掃除していたメイドさんたちの会話から、この部屋で間違いないそうだ。

 だが、そのメイドさんたちが、朝食後からデイジーの姿が見えないと話しているらしい。


「だが逆に言うと、朝食時にはいたと言う話だから、ちゃんと昨日は帰っているんだよな」

「そうだけど、王女の姿が消えるというのはどうなのかしら?」

「ふむ。アレックスよ。その辺りのメイドを虜にして話を聞いてみるのじゃ」


 困惑するオティーリエの話を聞き、ミオが無茶な事を言う。

 そんな事をするくらいなら、ザガリーの別荘のように話を聞いた方が良い気がするのだが。


「なるほど。ミオ様の言う通りですね。昨日の実験により成分を改良した、この素直になる薬でわからせ……じゃなくて、話を聞きましょう」

「おぉ、フョークラの薬もあったのじゃ。それなら、男にも効くのじゃ」

「その通りです。女性にはアレックス様のアレを。男性には私の薬で教えてもらいましょう。姿が見えないので、薬を盛り放題です」


 フョークラの薬と太陰の力の組み合わせが、ハマりすぎて若干怖いのだが。

 しかし、腐っている騎士団相手なら、その方法もアリだと思うが、まともな相手にはあまり使いたくない手でもある。

 流石に気の毒というか……いや、そんな事を言っている場合でもないか。

 あのザガリーの別荘にいる大勢の少女たちを何とかしないといけないしな。


「ねーねー、お兄ちゃん。女性に効くお兄ちゃんのアレって何なのー?」

「な、何の事だろうな。ひとまず、フョークラが薬を使う時は、巻き込まれない様にするんだぞ?」

「え? あ、うん。それより、アレって……」


 トレーシーが変な事に興味を持ってしまったが、無事に誤魔化し……フョークラの薬を使えそうな相手を探す。

 というのも、王宮だけあって人が多いので、人気が無く、かつ隠れて話が出来る場所を探す。

 姿の見えない俺たちと話していると、凄く大きな独り言になってしまうので、流石に目立ってしまうからな。

 そんな事を考えていると、


「アレックス様。変な所に出てしまいました」

「そう……だな。人気が無いというか、完全に人がいない場所に来てしまったな」


 周囲から人の気配がなくなってしまった。

 これはこれで本末転倒だと思っていると、話し声が聞こえてくる。


「……だな……」

「……ックスだ……」

「……デイジーと……」


 何を話しているかは分からなかったが、デイジーという名前が聞こえた。

 周りを見渡し……幾つかある扉の一つの中から、声と気配がする。


「……もう我慢出来ん!」

「……限界だ!」

「……アレを全部……」


 扉に近付き、先程よりは聞こえるが、やはり何を話しているかは分からない。

 姿が見えないので、中に入るのは簡単だが、泳がせて何を企んでいるのか聞いた方が良いかもしれないな。

 そう思っていたのだが、モニカが慌てて近寄ってきた。


「アレックス殿! 何を悠長にしているのだ!」

「モニカ!? 一体何の話を……」

「中から聞こえてくる声からして、今まさにデイジー王女が襲われ、凌辱されているのであろう! これを助けずとして何とする!」


 そう言って、モニカが扉を開けようとして、鍵が掛かっていた。


「……今の音は何だ!?」

「……誰かが扉を開けようとしていないか!?」

「……ここは、一般兵やメイドは立ち入り禁止にしているはずだろう!」


 依然として扉はしまったままだが、中の者たちが近付いてきたのだろう。

 先程までと違って、声が良く聞こえる……と思ったら、


「はぁっ!」


 モニカが扉を斬り倒す。


「扉がひとりでに壊れた!? どういう事だ!?」

「今すぐ、その少女を解放……あれ? その……アレをしていると言っていたのに」


 中にいた者たちが困惑する中、モニカが飛び込み……固まる。


「我はハッキリ聞こえておったが、こ奴らは怪盗レックスのせいでデイジー王女とザガリーの婚姻がなくなったという話をしていただけなのじゃ」


 どうやら中途半端に聞こえた言葉でモニカが勘違いしたようで……けど、この状況はどうすれば良いんだ!?

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