第895話 デイジー王女の部屋

 モニカの誤解を解いたものの、昨日レイチェルの家で待機してもらったからか、モニカとモニーとグレイスの三人が、絶対について行くと言う。


「勿論、私も行くよー! 昨日は一晩中魔力を貰ったからねー! 力が有り余っているしー」

「私も行くわよ。アレックスに万が一の事があったら、もう生きていけない身体になっちゃったし」

「わ、我も行くのじゃ。子供たちがどうなるのか、見届けるのじゃ」


 太陰とオティーリエはいつも通りの反応だが、ミオの反応が少し違う。

 母性に目覚めている感じがするな。

 ただ、それは良い事だと思うのだが、ミオまでマリーナやトレーシーのように抱きついてくるようになった。

 流石に三人は歩き難いのだが……まぁ今日は街中を歩いてデイジー王女の所へ行くだけなので大丈夫だろう。

 そんな事を考えながら歩いていると、そう言えば……フョークラが口を開く。


「アレックス様。どういう理由でデイジー王女に謁見を求めるのですか?」

「えっ? ……あ。そう言われれば……」

「大丈夫よ。だって、デイジー王女は昨日アレックスと一日中居たんでしょ? 我慢出来ずに自分から会いに来るわよ」


 オティーリエが自分から来るから問題なしと言っているが、流石にそんな事にはならないだろう。

 待ち合わせをしている訳ではなく、俺から迎えに行くという口約束しかしていない。

 デイジー王女は当然ながら王族なので、これでは会える訳がない。


「アレックス様。怪盗の仮面でしたら、トレーシーちゃんの分を含めて、全員分用意していますよ?」

「マリは怪盗レックスモードがいいなー! マリも怪盗リーナになるのー!」

「何だか楽しそうですね。私は怪盗グレープにします!」


 フョークラの言葉にマリーナが反応し、グレイスが乗っかる。

 じゃあ、私は怪盗レースにする! と、トレーシーが叫んだところで、


「あの、私の力で普通に入っていけばよいのでは?」


 太陰の一言で全てが解決してしまった。

 モニカとグレイスが不思議そうにしているので、太陰の力を説明し、堂々と王宮の中へ。


「……って、入ったのは良いが、どこにデイジー王女がいるか分からないな」

「そうだねー。腐った騎士団の詰所と違って、ここは壊す訳にはいかないしねー」

「マリの触手も使わない方が良いよね? 人が沢山いるし」


 マリーナはともかく、オティーリエは何でも壊さないように。

 まだ怒りが収まらないのかもしれないが、今朝はスッキリした表情だったように思えたんだけどな。


「固まって探すと大変だし、手分けして探そう。ただ、太陰の力は永久に続く訳ではないので、皆それは注意して欲しい」


 という訳で、昨日待機だったモニカとモニー、グレイスの三人と共に王宮を探索する。

 王宮内に兵士やメイドさんは大勢いるが、流石にザガリーの別荘のように、物陰に連れ込んで聞くというのは止めておいた方が良さそうだ。


「アレックス殿。こういうものは、概ね相場が決まっているものだ」

「というと?」

「警護の観点から、一番下の階に王族の個室を設ける事はない。かと言って、あまりにも上の階だと移動が大変だし、万が一の時に逃げる事が出来ない。つまり、デイジー王女の部屋は二階、もしくは三階くらいだろう」

「おぉ、なるほど。モニカ、流石だな」

「ふっ、この程度の事、造作もない。だから……その。役に立つ私を、ちゃんと離さずに傍へおいておくのだ……」


 モニカが小声で何か言っているが……何を言っているのだろうか。

 聞き直そうかと思っているうちに、二階へ到着したので、早速デイジー王女を探そうと思ったのだが、


「んー。王女の部屋は二階か三階かと思ったんだけどねー」

「二階は全滅でしたが、まだ三階があります。むしろ、王女の年齢と女性である事を考えれば、三階の方が可能性が高いかと」

「あー、王女だから他所へ嫁ぐ可能性が高いもんねー。じゃあ、三階へ行こうか」

「そうだねー。やっぱり皆同じ事を考えたみたいで、ミオさんや太陰さんも真っ先に三階へ上がって行ったし」


 少し先でオティーリエとフョークラが階段を上がって行った。

 そうか。みんな同じ事を考えていたのか。


「モニカ。俺たちも行こうか」

「くっ……殺せぇぇぇっ!」

「何がだっ!? モニカ!? どうしたんだっ!?」


 理由は分からないが、何故かモニカが顔を真っ赤にして悶えていた。

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