第796話 結衣のお願い
「……アレックス、見て。下に人がいっぱい」
「本当だな。大通りも賑わっているし、マーガレットやニースたちのおかげで、大きく発展したんだな」
「あの、ご主人様もレヴィアさんも、ここは壁が透明なので、下から見えてしま~~~~っ! ……うぅ、下に人がいっぱい居るのに」
レヴィアと俺の分身、結衣と俺とで暫く露天風呂を堪能した後、レヴィアに言われて屋上の端へ。
ちゃんと柵とガラスか何かで壁があり、落下しないようになっているのだが……四階建ての屋上だけあって、少し風が吹いている。
湯冷めしても困るし、風呂へ戻るか。
「……レヴィアたん。少しだけモニカの気持ちがわかったかも」
「え? 俺たちから転移スキルで離れた理由がか?」
「……そっちじゃない。人に見られるかもしれな……何でもない」
レヴィアが何か言いかけて止め、何だろうかと思っていると、何故か再び分身と柵の方へ戻って行った。
という訳で、俺と結衣が二人でまったりしていると、
「ご主人様。結衣は幸せでございます」
「ど、どうしたんだ、いきなり」
「いえ。こうしてご主人様とお話し出来て、行動を共にし、こんなに素敵な魔力もいただけているので」
そう言って、結衣がぎゅっと抱きついてくる。
それから、結衣がジッと俺をみつめると、何かを決意するかのように口を開く。
「ご主人様。実は一つ、お願いがございます」
「改まって、どうしたんだ?」
「あの……今も、こうして沢山の魔力を注いでいただいておりますが、これを莉子と美月にも、どうにか分けてあげられないでしょうか。私はこうして幸せなのに、二人は魔族領でずっとご主人様が来てくださるのを待っているのです」
莉子と美月……って、テイムしたシャドウ・ウルフか!
今はコルネリアが世話をしてくれているはずだが……しまった。ランランや白虎の救助を優先していて、ずっと会いに行っていないな。
結衣がこんな事を言って来るのは初めてだし、これは余程の状態なのかもしれない。
も、モニカを連れ戻す事が出来たら、一度戻らないといけないか。
「わ、わかった。流石に、これを直接……というのは無理なので、また結衣に相談させてくれ」
「はい! そうですね。今みたいに、沢山結衣に注いでいただき、それを二人に……とか」
いやあの、結衣を介する必要はないんじゃないか?
レイに相談するのが良い気がしてきたな。
そんな事を話していると、莉子と美月の話が出来て結衣が満足したのか、影の中へ戻って行った。
……一人で風呂に入り、のんびり出来る状態ではあるのだが、分身たち全員が頑張っているので、このままだとお湯がマズい事になる。
とりあえず、身体も綺麗になったし、ニナたちの所へ行こうと思って風呂を出ると、
「あれー? 美味しそうな香りがすると思ったら、アレックスがいるー! あー! それ、マリにちょうだーい!」
マズい! マリが来た!?
マーガレットは部屋だけでなく風呂も二つに分けてあると言っていたのだが……って、確かに風呂は二つに分かれているけど、屋上には何の仕切りもないじゃないか!
どうやら、マリーナとモニーが二人で風呂へ入ろうとしていたらしく、二人が全裸でこっちを見ている。
そう思ったら、逃げる暇もなくマリーナの触手が俺に絡まってきた!
しかも、触手を俺に絡めたまま縮めたのか、一瞬でマリーナが距離を詰める。
「いただきまーす!」
「こ、こら。マリーナ! それは咥えるものではないんだ!」
「えー! でも、モニーからやり方を教わったよー? こうでしょー?」
……って、モニーはマリーナに何を教えているんだよっ!
マリーナの触手が俺の下半身を包み込み……レイが持っていたフラスコみたいな形になって、その中でマリーナが咥えているんだが。
「あぁぁぁーっ! ズルいです! 父上っ! 是非私も混ぜてくださいっ! とぉっ……おぉぉぉっ!?」
「お、おい! モニー! ……≪ディボーション≫」
モニーがこっちの風呂へ向かって走ってきて……すべって転ぶ。
パラディンの防御スキルが間に合ったはずだが……大丈夫だろうか。
「モニー、大丈夫か?」
「はい! やはり父上はお優しい。あとは、私にもそれをくだされば、もっと嬉しいのですが」
「いや、ダメなものはダメだ。あと、俺のスキルで怪我はなかっただろ? とりあえず脚を閉じなさい」
「……! 父上。今ので太ももの内側を打ってしまったようです。よく見てください」
モニー。パラディンの防御スキルを使っているから、バレバレの嘘は吐かないように。
あと、マリーナは俺を解放してくれぇぇぇっ!
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