第503話 リス耳族の森?

「ここが村長の言っていた、獣人族の……リス耳族の村か」


 もしかしたら、ノーラの故郷かもしれないと、はやる気持ちを抑えながら、まずは住人を捜す。


「……って、誰も居ないな。ここはただの森なのか?」

「そうかもしれないわねー。気配も無さそうだし」

「リスみみぞくさんだからー、きのうえかもしれないよー? パパー、ユーリみてこよーか?」


 木の上か。

 ユーリの言う通り、確かにあり得るな。


「≪ディボーション≫……ユーリ、悪いが木の上を軽く見てくれるか?」

「うん、まかせてー!」


 パラディンの防御スキルでダメージを肩代わり出来る状態にして、ユーリがパタパタと木の上へ飛んでいく。

 暫く様子を見ていたが、そのままユーリが戻って来た。


「んー、このあたりじゃないのかもー。おおきなもりだったしー」

「そうか。ありがとうな、ユーリ」

「ううん。どーいたしましてー」


 大きな森か。

 村長に森のどの辺りに村があるのか聞いておくべきだったな。

 ただ、小川に沿って進めば間違いなく村はあるはずだ。

 そのまま森の中を皆で歩いていると、背後に何かの気配と視線を感じた。


「――っ!?」

「パパー、どうしたのー?」

「あれ? ユーリか。いや、すまない。誰かに見られていたような気がしたんだ」

「んー? だれもいないよー?」

「あぁ、そうだな。気にしないでくれ」


 おかしいな。

 探知系スキルは持っていないが、長年の冒険者暮らしで、魔物の気配なんかは割と察知出来るのだが。

 周囲を警戒しつつ、歩いていると、俺に抱っこされているニースが小声で話しかけてきた。


「……パパの言う通り、後ろに何かいるの。けど、何かまではわからなくて……」


 ニースは俺が抱っこしているから後ろ向き……なるほど。

 俺の代わりに背後を見てくれていたのか。


「……魔物ではないんだよな?」

「……うーん、たぶん。木から木へ飛び移っているように見えるかな」


 小声でニースと会話を続けるが、木から木へ飛び移ると聞くと、やはりノーラの種族であるリス耳を想像してしまう。

 とはいえ、かなり警戒されているようだし、どう切り出すべきだろうか。

 いきなり、ノーラの話を出した所で、知っている者が居れば良いが、居なければ警戒されるだけだ。

 ……いや、それで良いのか。

 ノーラを知っている者が居れば良し。居なければ、その村には立ち寄らない方が良いだろうからな。

 ……さっきの村がとんでもない事になってしまった訳だし。


「……という訳で、この森にあるという獣人の村の者に声を掛けたいのだが、良いだろうか」

「私としては、あなたがそうすると決めたのなら、止める理由は無いわね」

「プルムも、お兄さんがそうするって決めたなら、それで良いと思うなー」


 思い付いた事を皆に相談してみると、ラヴィニアとプルムからは賛同が得られた。

 ちなみに、ニースとユーリも構わないとの事なので、背後から隠れて見て居るであろうリス耳の獣人に向かって叫んでみる。


「聞いてくれ! 俺の名はアレックス! あるスキルで、リス耳族のノーラという少女を奴隷から解放し、預かっている! もしも、家族や知人などが居るなら、教えて欲しい! ノーラを家に帰してあげたいんだ!」


 さて、どうなるだろうか。

 後ろに居る者がノーラの事を知らなくても、一旦村へ聞きに行ったりしてくれるかもしれない。

 という訳で、休憩を兼ねてこの場で少し待つ事に。


「パパー! ちょっとだけ、まっててー!」

「ん? 防御スキルは有効だが、あまり遠くへ行かないでくれよ?」

「うん。だいじょーぶ! すぐ、そこだからー!」


 休憩という事で、小川のすぐ傍に腰掛けると、ユーリが上に向かって飛んで行き……三つほど木の実を持って戻って来た。


「あのねー。このきに、みがなってたのー!」

「おぉ、ありがとう。ユーリ。じゃあ、いただこうかな」


 ユーリが取ってきてくれたリンゴのような木の実を川で洗うと、


「≪水の刃≫」


 ラヴィニアがスパスパと水魔法で皮を剥き、綺麗にカットしてくれた。

 早速木の実を食べて居ると、


「……何か、来るな」


 後方に居たと思われる獣人族の者が近付いて来た。

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