第825話 アレックスとブレア
「クケケ、待たせたな……って、アレックス? 何か悪人が怯えていないか?」
「気にしないでくれ。少しでも性根を叩き直そうとした結果だ」
ブレアが騎士を連れて戻って来るまでに、殴って治して殴って……を数回繰り返したのだが、騎士たちを見て顔を輝かせたあたり、メリナ商会の手の内にある騎士なのかもしれないな。
「で、ブレア。当然、こちらの商人たちが人攫いだという証拠はあるんだろうな?」
「クックック、無論だ。そちらの店で保護してもらっている」
「ふっ、では確認させてもらおう。おっと、ブレアとその仲間の男は動くな。おい、見てこい」
……この騎士たちの隊長っぽい奴は、黒だな。
おそらく、今向かわせた騎士たちに、先ほどのドワーフの女性たちを居なかった事にさせたいのだろうが、そうはいかない。
「アレックスよ。騎士のような奴らが来たが……此奴らは信じられぬのじゃ」
「いや、ミオの判断は正しいかもしれないぞ。ひとまずドワーフの女性たちを連れて来てくれないか?」
「ふむ。構わぬのじゃ」
そう言うと、店の中から五人のドワーフの女性が現れる。
「クケケ……あの通りだが?」
「お、おいっ! そんな事より、俺の部下たちはどうしたんだ! まさか、騎士に手を出したというのなら、公務妨害として……」
「何を言っているのじゃ? 奴らなら、そこにおるではないか」
隊長格の男がドワーフの女性たちを見ようともしない中、ミオの結界に引きずられるようにして先程の騎士たちが戻ってきた。
それにしても、このミオの自在に動かせる結界は便利だな。
俺なら一度結界を解除して、物理的に引きずるしかない。
「お、お前たちっ! 何をしているんだ!?」
「た、隊長……見えない壁のようなものに阻まれて、身動きが取れません」
「あぁ、我の……狐耳族の結界術なのじゃ。一切危害は加えておらぬが、何か不都合でもあるのかの?」
ミオの言葉で、隊長と呼ばれた騎士と商人たちが顔を歪める。
「隊長。では、この商人たちはブレアさんの申告通り投獄します。問題ありませんね?」
「くっ……わかった」
「ブレアさん。人攫いの捕縛、ありがとうございます。後は私にお任せ下さい」
隊長が困惑する一方で、同行していた女性騎士がキビキビと動いていく。
おそらく、この女性騎士は白だろう。
……出来る事ならば、この隊長も殴っておきたいところだが、それよりもやるべき事があるからな。
「その人攫いたちは、そちらに任せるが、こちらのドワーフの女性たちは、俺たちに預からせてもらえないだろうか」
「はっ! はははっ! 遂に馬脚を現したな! 実はお前たちが人攫いで、こちらの商人たちに罪を擦りつけた……そういう事だろう!」
「いや、俺たちはドワーフの国から依頼を請け、攫われた者たちを救出しに来たんだ。疑うのであれば、ドワーフ国の船が待機している場所まで案内するぞ?」
「なっ!? 何だと……」
「何かマズい事でもあるのか? それと、その商人が、どうやってドワーフの女性を攫ったのか、調べてもらいたい」
隊長が苦々しい表情を浮かべているが、先ほどの女性騎士が任せろと言っているので、こっちは大丈夫だろう。
「あと、この街にメリナ商会の拠点はあるのか?」
「街の中心に大きな赤い屋根の建物が……って、まさか乗り込まれるのですか!?」
「当然だ。メリナ商会は疑惑でしかなかったが、こうして確信が持てた以上、潰さない理由がない」
人攫いで奴隷にし、売買するなど許される訳がない。
「ふ……ふははは。バカか!? メリナ商会の力は小さな国に匹敵する程だ。お前一人に何が出来ると思っているんだ!」
「相手の大きさや強さなどは関係ない。俺はパラディンとして、奴隷にされている者を助けるだけだ」
「クケケッ! それに、一人ではないな。正義の力で巨悪を潰す……私も加勢している。アレックスの大切なパートナーだからな」
ブレアが俺の隣に立ち、隊長の男を見ていると、
「チッ! メリナ商会に喧嘩を売るなど……後で後悔するんだな」
そう言って、何処かへ消えて行った。
「まったく……奴は自分が騎士だという事を忘れているようじゃな。……ほれ、お主らも行くがよい。ただ今回は解放してやるが、我らの邪魔をすれば、全員強制的に海へ沈めるのじゃ」
「じゃ、邪魔なんてしませんっ!」
ミオに脅され、結界の中にいた騎士たちが逃げて行く。
まったく、この騎士団は……。
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