第951話 チユプの街を目指して
北東にあるチユプの街という場所へ移動するにあたって、まずは俺が馬車を引いてみると提案したのだが、俺はまだ雪国をちゃんと理解していなかった事を思い知らされる。
「アレックスが馬車を引く……というが、そもそもこの国に馬車はないぞ?」
「え? そう……なのか?」
「街の中は踏み固められているが、街を出たら一面雪しか無いからな。轍どころか、街道すらない。とはいえ道に迷ったり、雪の積もった湖の上を進んで落ちても困るから、ところどころで看板は出ているが」
今回はグレイスが来ていないから、空間収納で馬車を出してもらう事が出来ないので、どこかで借りられないかと思ったのだが、それ以前の話だった。
やはり、犬ぞりというので移動するしかないのか。
「あ、待てよ。馬車の代わりに、犬ぞりがあるんだよな? だったら、そりだけ借りられないだろうか」
「えっと……さっき言っていた、馬の代わりに馬車を引くように、犬の代わりにそりを引くのか?」
「そのつもりだが?」
「うーん。両親に見られたら何と言われるかわからないから、行きだけなら……」
あー、今回はネーヴの結婚式を挙げるからな。
来た時の貴族のような格好は空間収納にしまい、いつもの格好ではあるが、スノーフェアリー族の男性は大男ばかりだから、普段着でも俺は目立ってしまうのか。
「わかった。ひとまず、一度試させてくれ。ダメだったらまた考えよう」
ネーヴには申し訳ないが、モニカを待たせているというのもあるし、チユプの街で領主による非人道的な事が今も続けられているとしたら、到底許される事ではない。
一刻も早く移動した方が良いと思っての提案なんだ。
という訳で、先に出たスノーウィたちを追いかけ、犬ぞりを貸してもらった。
「アレックス様。ソリは問題ないのですが、スノー・ウルフは我が国の騎士団の管轄で、私の権限だけではお貸し出来ないのです。誠に申し訳ありません」
「いや、こちらこそ無理を言ってすまない。ちょっと借りさせてもらうよ」
「では、私たちは戻りますね」
スノーウィの顔色が悪かったので、尚更オティーリエに空を飛んでもらう案を却下出来て良かったと思う。
しかし、スノーウィがそりを置いていってくれたのだが……思っていたそりとは違って、小さい。
せいぜい二人乗りではないだろうか。
「ネーヴ。犬ぞりとは、これくらいの大きさなのか?」
「そうだな。スノー・ウルフにせよ、犬にせよ、それほど重量は運べないからな。騎士団用の犬ぞりはもっと大きいが、一般的な物はこれだ」
「なるほど。思っていたより遥かに小さいんだな」
イメージとしては、馬車とまでは言わないが、その半分くらいの大きさで、十人くらいが乗れるそりを引いて行くのだと思っていた。
だが貸してもらったのは、どう見ても二人乗るのが限界で、ほぼ椅子だけのギリギリまで軽量化された物だ。
俺たちは小さいが空間収納スキルで荷物を運べるから良いものの、輸送は困難……あ、だから召喚魔法とか転移魔法が使える者が王宮にいるのか。
「……第四魔族領と貿易を行っている様に、転移魔法とかで運んで貰うのはどうだ?」
「チユプの街との荷物のやり取りは行っているが、スノーウィの範疇ではなく宮廷魔道士たちだから、難しいかもしれない。今回スノーウィが現れたのが遅かった理由も、おそらく宮廷魔道士たちとやり合っていたからだろう」
いや、そこまで分かっているなら、ちゃんと事前連絡してあげれば良かったと思うのだが。
……逆か。事前連絡したら断られて揉めるのがわかっていたから、スノーウィが大変な事になるのを承知で、不意打ちのように移動してきたのか。
スノーウィ……すまん。
「とりあえず、そりを引いてみるから、三人とも乗ってみてくれ」
椅子にレヴィアが座り、その膝の上にちょこんと座るユーリを抱きかかえる。
……うん。可愛いな。癒される。
ただ、ユーリの羽根がレヴィアの顔に当たりまくっていて、レヴィアは嫌そうに……あ、向きが変えられた。
ユーリが椅子に座るレヴィアに抱っこされ、その椅子の後ろのそりの上にネーヴが立つ。
後は、俺がそりを引けば……うん。軽いから楽勝だな。
「……そりは余裕で引けるが、雪道を走るのは難しいな」
「踏み固められている場所はまだしも、常に雪が降り積もるから、フワフワしている場所もあるから……」
さて、どうしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます