第793話 久々の再会

 初めて来たのに、何故か俺の事を知っていて、しかも最上階に部屋が用意してある……と、案内されているのだが、


「アレックス様。早く……もう、ダメですっ! 今すぐここで……」


 遂にグレイスが限界に達し、いろんなところを触り始めた。

 こんな通路で……しかも、すぐ後ろにマリーナやフョークラ、それに宿の従業員が居る状態では絶対にダメだ!

 ……あ! 仕方がない、ここかっ!


「ま、待ってくれ……≪分身≫」

「アレックス様ぁぁぁっ!」


 通路を進んで行く途中でトイレがあったので、分身を出してグレイスを連れて行ってもらう事にした。

 まぁ最上階に行くと言っているし、グレイスはとりあえず上を目指してもらえば良いだろう。


「今のは……羨ましい。早く我々にも……」

「ダメです。我々には先にすべき事があります。それまで我慢です」

「そ、そうでした。うぅ……」


 宿の従業員の女性たちがコソコソ何か話しているが……あ、急に俺が増えたから驚いているのか。

 まぁ分身スキルはかなりレアだから、知っている者はあまり居ないよな。

 俺もサクラやカスミたちしか使える者を知らないし。


「アレックス様。こちらでございます。どうぞ中へお入りくださいませ」

「あの、どうして俺の事を知っているんだ?」

「中に入ればおわかりいただけるかと。アレックス様をずっとお待ちしていた方が居られます」


 ストレートに聞いてみたのだが、どうぞ……としか言ってくれなくなってしまった。

 敵意や害意は一切感じられないから、何かの罠……とは思えない。

 というか、むしろ好意というか、熱い視線というか、先程までのグレイスのような視線を浴びせ続けられているのだが。

 ……グレイスで思い出したが、途中で別行動にしたグレイスが頑張っていて、いつ暴発してもおかしくないので、急ごう。

 また結衣に頑張ってもらう事になってしまうは避けたい。


「失礼する」


 俺を待って居る者とは誰だろうかと思いながら豪華な扉を開けると、かなり広い……三十人くらいは入りそうな大部屋だった。

 そこにテーブルやベッド、ソファといった豪華な家具が並び、更に奥へ続いていそうなのだが、その前に……ソファに見知った者が座っていた。


「ニース!」

「パパーっ! やっと来てくれたー! 遅いよー!」


 ニナの人形ニースと目が合った途端に走ってきて、思いっきり抱きついてくる。


「ニース! ひさしぶりー!」

「ニナママー! あのね、あのね、ニース、温泉を掘ったんだよー! それから、それから……」

「うんうん。頑張ったねー!」


 しゃがみ込んでニースを抱きしめると、ニナもやってきて一緒にニースを抱きしめる。


「そうか……前に来た時とかなり変わったけど、ここはララムバ村なのか」

「アレックス様。今は村から街に昇格し、ララムバの街となっているんです」

「マーガレット! 久しぶりだな」

「本当です! もう、全然来てくださらないですもの。でも、来てくださって嬉しいです。今晩は是非宜しくお願い致しますね」


 ララムバ村の村長の孫娘……いや、今は町長の孫娘になったと思われるマーガレットが、ドレス姿でゆっくりと歩いてきて、俺に抱きついてくる。

 話を聞くと、ニースの温泉のおかげで、村から街へと昇格する程人口や家が増え、マーガレットの祖父の手に負えない……と町長を引退したらしい。

 で、今は父親が町長で、マーガレットも町長の補佐をしているという事だった。

 前に来た時は、普段着で薬草を摘んでいたのだが……この短期間で大きく変わったようだ。


「これもニースさんと、そしてヴィクトリアさんのおかげです」

「アレックス様ぁぁぁっ! 私の事を覚えていらっしゃいますか!? アマゾネスの村からララムバ村まで一緒に来て、そこからこの宿の設計をしたり、ニース殿の手伝いをしたり……久々過ぎるので、今日は前と後ろから気絶するまでお願い致しますっ!」


 マーガレットがヴィクトリアの名を口にすると、後ろからヴィクトリアが涙と涎を垂らしながら迫って来た。

 あー、ヴィクトリアはモニカの影響を受けすぎて、ちょっと……うん。何も言うまい。


「アレックス様。こちらのスィートルームは、是非ニースさんやそちらのお嬢様方とお楽しみください。そして我々は奥の別の部屋へ参りましょう。ちゃんと防音室にしておりますので、ご心配なく」

「あと、屋上にアレックス様専用の温泉も二つありますから。ニースさんたち用と大人用で、抜かり有りません」


 いやあの、言いたい事はわかるんだが、温泉が別れていても、俺は分身と繋がっているから、いろいろとダメなんだが。


「さぁ、皆さん! ニースさんとアレックス様の感動の再会がありましたが、次は宴です! アレックス様を思う存分堪能……ではなくて、アレックス様に堪能していただきましょう!」


 マーガレットが従業員の女性達に声を掛けるが……えっと、嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか。

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