第611話 魚村からの脱出

 翌朝。

 目が覚めたら部屋が凄い事になっていた。

 猫耳族の女性たちが十人程気絶しているかと思えば、更に十人程が俺の分身と抱き合っている。


「……って、村長さん!?」


 未だに起きている猫耳族の中に、何故か村長さんが混ざっており……しかも、メチャクチャ激しいんだが。

 えっと、確か昨日は、食事中も猫耳族の女性がどんどんやって来て……その後だ。

 ユーリ経由で、逢瀬スキルを使って迫られ、食事を終えた後は寝るだけだからと、エリーやリディアたちの所へ行ったんだよな。

 で、逢瀬スキルを発動させたまま眠ってしまって……起きたらこの惨状だ。


「あ、お客様ー! おはよーございまーす! ……えいっ!」

「クリスティーナ、おはよう。……って、寝起きから何を!?」

「……んっ。ふぅ……いえ、昨日の夜に、結衣ちゃんが美味しそうに飲んでいたので、クリスも飲んでみたら、癖になる味だったから」


 クリスティーナが突然俺のを……とりあえず、話をする為に分身を解除すると、


「アレックス様。もう少し……」

「あと、ちょっとだけ。ちょっとだけで良いので……」


 村長を始めとした、起きている猫耳族の女性が近付いて来る。


「そ、村長さん! ちょっと待ってくれ。話を……」

「話は、その凄いのを私にくださってからです」

「えぇ……し、仕方ない。それで……」

「ふわぁぁぁっ! しゅごいぃぃぃ~~~~っ!」


 って、話にならないんだが。

 他の猫耳族の女性たちが順番待ち……というか囲まれ、いろんな所に身体を押し付けられているのだが、どうすれば良いんだよ。


「……パパー、おはよー!」

「ゆ、ユーリ!? これは……」

「あ、ふだんから、みなれてるから、だいじょーぶだよー? それより、パパー。きのうも、おはなししたけど、このひとたち、みんなチャームじょうたいだよー?」

「見慣れてるって……いや、そんな事よりも、この猫耳族の女性たちがチャーム状態!? つまり魅了されているって事か!?」

「うん。あ、クリスティーナは、だいじょーぶみたい」


 やはり、ランランの封印効果が切れ、俺の魅了スキルが発動してしまったようだ。

 この魚村とは魅了とかではなく、対話で仲良くなりたかったのだが、残念だ。

 この村も、誰かに連絡係をしてもらい、もう俺は来ない方が良いのだろうな。

 とはいえ、取るべき責任はもちろん取るが。


「しかし、クリスティーナが平気なのは……やはり、花魁という謎のジョブのおかげだろうか」

「んー……あ、そうだ。関係あるかは分からないけど、クリスが花魁のジョブを授かってから、何故かママが家から男の人を全員追い出しちゃったんだー。しかも、パパまで」


 父親も含めて男性を全員追い出したという事は、クリスティーナが授かった花魁というジョブは、魅了系のスキルを持っていたのか?

 ……というか、もしかしてランランに封印してもらった魅了スキルとは別の、魅了系のスキルを得てしまったという事はないよな!?

 心の底から無いと思いたい。

 次は西の大陸へ行き、白虎を探さないといけないというのに、街や村へ入れないというのは、非常に困るのだが。


「クリスティーナ。実は俺たちは、そろそろ出発しないといけないんだ」

「そうなんだー。寂しくなるねー……あぁっ! この、お客様の凄い棒が欲しくなったら、どうしたら良いのっ!?」

「ら、ランランに……あの塔に居る玄武に相談してみてくれ」

「わかったー」


 すまない、ランラン。

 この辺りは、また要相談だな。

 だが、出発しようと思ったのだが、猫耳族の女性たちが離してくれず……結局、分身を使って、本気モードでクリスティーナ以外を全員気絶させる事に。


「じゃあ、今度こそ出発するが、この村長さんや猫耳族の女性たちは、目が覚めたら今まで通りに戻っているはずだ」

「そうなの?」

「あぁ。俺が離れれば大丈夫なはずだ。あと、村長には伝えているが、風の四天王という魔族はもう居ない。困った事があれば、玄武かその近くに居る俺の仲間に相談してくれ……というのを、後で村長さんやベルティーナにも伝えておいて欲しい。あと、責任はちゃんと取るとも」

「ママとお姉ちゃんに、そう伝えれば良いんだねー。了解っ!」


 今更だけど、クリスティーナは村長の娘で、ベルティーナの妹だったのか。

 すぐ傍で気絶している村長さんに心の中で謝りつつ、逃げるようにして魚村を後にした。

 ちなみに、


「く、クリスティーナっ!? 母上までっ! こ、この酷い有様は!?」


 泊まっていた家を出た後、ベルティーナの叫び声が聞こえたような気がしたのだが、今会うとベルティーナまで魅了してしまいかねないので、そのままランランの元へ向かう事にした。

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