挿話133 何も聞かされていないクリスティーナ

 お客様にお出ししたお皿の一部を下げ、厨房へやって来た。


「すみませーん! あの、このお料理が腐っているみたいだと、お客様からご指摘があったので、交換してくださーい!」

「これは……クリスティーナ様。こちらの料理には、手をつけられていないようですが」

「えっとねー、お客様の中に居た天使みたいな女の子から、食べる前にダメだって言われちゃって」

「天使……? え!? 天使族が居るんですかっ!? な、なんと……」


 お客様のお部屋であった事を伝えると、どういう訳か厨房から出て来た料理長が頭を抱えてしまった。

 ……あ、そっか。クリスたち猫耳族や、人間族には問題なくても、天使族には毒だっていう食べ物があるって事ね。

 なるほど。種族が違えば、味覚や好みも変わるもんねー。

 実際、この村で獲れる魚はすっごく美味しいのに、野菜村の人間族はそこまで好きって訳ではなさそうだもんね。


「とりあえず、このお料理……勿体ないから、食べっちゃっても良い?」

「だ、ダメですっ! これは、毒……げふんげふん。クリスティーナ様は、飲み物を運んでください」

「はーい!」


 そう言って、料理長が持って来たのは、お酒かな?

 クリスはこの匂い、あんまり好きじゃないんだよねー。

 でも、お仕事だから仕方ないけど。


「ところで、クリスティーナ様。他の者はどういたしました? 風呂場へ呼びに行った者や、最初に料理を運びに行った者が戻って来ないのですが」

「お客様の相手をしているんじゃないのかなー? それより、あのアレックスっていうお客さん、凄いんだよー!」

「えぇ、ベルティーナ様から聞いております。何でもカウンター系のスキルを持っているそうですね。ですから、この料理で少しでも弱体化しておきたかったのですが、まさか天使族が居るなんて……」


 カウンター?

 なんだろ。難しい事は分からないけど、ひとまずお酒を持って、お客様の所へ。


「失礼しまーす! お飲み物をお持ちしましたー!」

「~~~~っ!」


 あ、あれ!? クリスが入って来るのと、殆ど同時にさっき料理を運んで来た人が、お客様に抱きついたまま寝ちゃった。

 お仕事が忙しくて寝不足だったのかなー?

 お客様に迷惑を掛けるのは良くない……と思っていると、お客様の女性の方が、ペイッて引きはがした。

 仕方ない。その分、クリスが頑張ろう!

 普段、お仕事をさせてもらえる機会は少ないし、その分頑張らなきゃと、次の料理を運んで、ご飯をよそったり、デザートを出したり……うん。クリス、頑張った!

 それなのに、何故だろう。給仕の人が少なすぎるからと、厨房から料理をする人たちも手伝ってくれたんだけど、皆お客様に抱きついて、ぐったりしちゃうんだよね。


「えーっと、お布団の準備をするね」


 もう起きているのは、クリスと料理長だけになってしまったので、とにかくお布団を敷いて……うん、おしまいっ!

 頑張った! クリス、頑張ったよー!

 離れから出て、達成感に満たされながら、自分で自分を褒めていると、ママがやって来た。


「クリスティーナ。首尾はどう?」

「あ、ママー! 完璧だよー! クリス、頑張ったんだー!」

「そう。流石はクリスティーナね。辛い思いをさせてしまって、ごめんなさいね」

「ううん。大変だったけど、良い経験が出来たよ」


 こんなにヘトヘトになるまでお仕事したのは初めてだし、お客様の変な棒を挿れると凄いって事も初めて知ったし……そうだ。お仕事を頑張ったし、もう一回お客様の棒が欲しいなー。行っちゃダメかなー?

 そんな事を考えていると、ママがいつも一緒に居るお供の方たちに声を掛ける。


「お前たち。念の為、確認を」

「はっ!」


 三人の猫耳族の女性が走ってお客様の部屋へ。


「……ふにゃぁぁぁ~~~~!」


 さっき走って行った人の声が聞こえた気がしたけど……どういう訳か戻って来ない。


「……クリスティーナ。あの男に近付いたのよね?」

「うん。お風呂でお背中も流したよー!」

「クリスティーナがそこまでしているなら、確実に魅了されているはず。何故戻って来ないの?」


 ママが少し考えた後、


「クリスティーナ。一緒に来なさい。あの男のところへ行くわよ」

「はーい!」


 二人でお客様の部屋へ。

 扉を開けると、さっき走って行った三人を含め、猫耳族の皆が幸せそうな顔で眠っていた。

 それから、


「くっ……あ、アレックス様っ! 私にもお願い致しますっ!」

「あれ? ママも? じゃあ、クリスもー!」


 ママは他の皆と同じく、すぐに寝ちゃったので、クリスは朝までお客様にくっつかせてもらった。

 ……お客様は、やっぱり凄い!

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