挿話82 国へ帰る熊耳族と族長のブリジット
「ビビアナ、頼んだぞ」
「任せて欲しいッス。絶対にお姉ちゃんたちを守るッス」
そう言って、アレックスがビビアナに何かを手渡す。
いいなぁ。私も違う形でアレックスに出会いたかった。
ビビアナは一回で妊娠したと言っていたけど、私も今回ので妊娠してないかなー。
そうしたら、またアレックスの所へ来る理由になるし。
「じゃあ、そろそろッス。お姉ちゃんも、皆も、手を繋ぐッス」
ビビアナに言われた通り手を繋ぎ、他の者が私の手を取って、輪を作るようにしていると、身体が緑色に光りだした。
一瞬で景色が変わると、石壁に囲まれた見知らぬ部屋の中で……窓すらないので、おそらく城の地下だろう。
「戻って来たか。族長であるブリジットとビビアナだけ部屋から出るんだ。他の者はここで待機するように。くれぐれも変な事は考えぬようにな」
城の兵士に連れられ、向かった先は……スノーウィの部屋か。
「失礼します。今回の騒動の発端である熊耳族の族長ブリジットと、その妹ビビアナをお連れ致しました」
「入ってくれ」
部屋に入ると、大きな机で大量の書類に埋もれていたスノーウィが立ち上がる。
「ブリジット。熊耳族の族長でありながら、とんでもない事をしてくれたな。城の転送装置を占拠し、事もあろうにあのアレックス様の所へ攻め入るなどと。当然、相応の……」
「待って欲しいッス! 旦那さ……そのアレックス様から、手紙を預かっているッス」
「なっ!? アレックス様から!?」
ビビアナから手紙を受け取ったスノーウィが真っ青になりながら封を開け……崩れ落ちたっ!?
い、一体何が書いてあるんだ!?
「だ、大至急……いや、ダメだ。皆の者、熊耳族の二人を残し、部屋から出てくれ」
私とビビアナだけが残され、兵士たちが部屋から出ると、
「ブリジット……一体、向こうで何をしたんだ? アレックス様が、命までは奪わないでやって欲しいと書いているんだが」
物凄く困った様子のスノーウィが問いかけてくる。
「いや、ビビアナの……妹の事が心配で、ついカッとなって、乗り込んでしまっただけだ。それで、アレックス様には謝罪をしているのと、結局誰にも攻撃はしていないからかと」
「ふむ……手紙にも同じ様な事が書いてあるし、本当か。……それからビビアナ。妹が……スノーホワイトが、アレックス様に故郷を案内したいと書いているのだが、どうしてこうなったんだ?」
「その、お姉ちゃ……姉が悪いのは分かっているが、命までは奪わないで欲しいと、アレックス様がスノーウィ様にお願いしに行くと言いだしたッス。その後スノーホワイト様が、だったら一緒に行くと仰られたので、全力で止めてきたッス」
事前にビビアナから聞いた話によると、あのネーヴっていう女性が、かの有名な雪の宰相スノーホワイトで、スノーウィの妹らしい。
しかも、あの炎の監獄からスノーホワイトを助け出したのがアレックス……って、凄すぎでしょ!
どうやって助けたのかは知らないけど、奥さんの中に竜人族や、九尾の狐が居るだけの事はあるわね。
「スノーウィ様。この度の件、全ては熊耳族の族長である私に責任があります。私はともかく、他の熊耳族の者には、どうかご慈悲を」
「……アレックス様が手紙に認められている以上、命までは取らないが、何かしらの罰は受けてもらう。今回、熊耳族の騒動で、国から出た者たちは国外追放とする」
「……あれ? それってつまり……」
「はぁ……まぁそういう事だ。スノーホワイトが受け入れるから、今回アレックス様の元へ行った者たちをそうしろと……一体何を考えているのやら」
おぉー、宰相の名は伊達じゃないわね。
どうすれば最善かがよく分かって居る。
しかも国を離れているというにもかかわらず、スノーウィは妹さんに頭が上がらないと。
これはアレックスの所へ戻ったら、何かお礼をしないと。
何か手土産を持って行った方が良さそうね。
「畏まりました。つきましては、転送装置をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか」
「……仕方が無い。許可しよう」
「ありがとうございます。私はともかく、他の者に家を出る準備などをさせていただきたいので、数日貰ってもよろしいでしょうか?」
「構わぬが、やけに嬉しそうだな。……良いか? スノーホワイトはともかく、絶対にアレックス様へ迷惑を掛けるなよ?」
「当然です。誠心誠意、アレックス様の為に働いてまいります」
……主に、夜のお仕事かもしれないが。
「お姉ちゃん、ズルいッス! だったら自分も行くッス!」
「……熊耳族の事なので首を突っ込み過ぎる気は無いが、族長代理は決めて行ってくれよ」
という訳で、私とビビアナ、そして同行していた熊耳族の精鋭の女性たちが、アレックス様の国へと移住する事になった。
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