第504話 濡れ衣を着せられるアレックス

「アレックス……さんですか?」

「あぁ、そうだ。この森に住んでいる獣人族の者だろうか?」


 現れた俺と同い年くらいの女性に尋ねると、静かに頷く。

 獣人族特有の頭から生えた大きな耳に、ノーラと同じ大きな尻尾。

 ノーラが成長したら、こんな感じの女性になるのではないかと思えるような姿だ。

 どうやら呼び掛け作戦は成功みたいだな。

 そう思った直後、女性の態度が豹変する。


「そうか……お前がアレックスで間違いないか」

「その通りだが……何かあったのか?」

「あったのか? ……じゃない! 貴様っ! 一体何をしたっ! さっきの声はなんだっ!?」

「さっきの……というと、ノーラの事を知っている者が居ないか? という呼び掛けの事か?」

「そうだ! 内容などどうでも良い! 一体何のスキルだ!」


 スキル? この女性は、先程から何の話をしているのだろうか。

 俺は声に関するスキルなど持っていないのだが。


「すまないが、何の話かわからないのだが」

「とぼけるなっ! お前の声を聞いた瞬間に、何人かの女性が発情し始めた! 何かのスキルを使ったに違いないだろ!」

「悪いが本当にそんなスキルは使っていないし、そもそも使えない。何かの勘違いか、偶然ではないのか?」

「そんなわけあるかぁぁぁっ! 一人ならまぁ分からんでもない。だが十人近くの女性が……それも、下は十三歳から上は三十歳近くまでと、バラバラなんだぞ!? 何らかのスキルを使ったと考えた方が自然だろうが! さぁお前のジョブは何だ!? 奴隷商人か!? それとも暗黒魔導師かっ!?」

「いや、パラディンだが」

「嘘つけぇぇぇっ!」


 そう言って、リス耳の女性が殴りかかってきた。

 物凄く怒っているが、ただ真実を述べただけなんのに。


「なっ……私の拳を受け止めただと!?」

「まぁその、パラディンは防御力が高いからな」

「な、ならば、これでっ! ……なっ!?」


 拳を止められた女性が、そのまま向かって来たかと思ったら、飛び膝蹴りを放って来た。

 思い切りが良いな。

 とはいえ、身体ごとぶつかってきたものの、細身の女性なので攻撃が軽い。

 残念ながら、それでは俺にダメージは与えられないな。

 そう思った瞬間、女性が身体を深く沈ませ、高く上に飛び上がり、回転しながら蹴りを放つ。

 ……いわゆるサマーソルトキックという奴なのだが、流石は獣人といったところか。非常に動きが良い。


「今のも効かないのね」

「最後の蹴りは良かったぞ。まさか、そんな攻撃が来るとは思わなかったからな」

「でも、軽々と避けたわね」

「まぁくらいたくは無いからな」


 少し距離を取り、女性と向き合って居ると、川から様子を見ていたラヴィニアが慌てだす。


「そ、そんな! おかしいわ! あなた、この獣人……何か変よっ!」

「どうしたんだ?」

「だ、だって、さっきのパンチも、膝蹴りも。そして、何より、最後の宙返りも。いずれもあなたの傍に居るというのに、いつまで経っても服を脱がないのよ!?」


 ラヴィニアは何を言っているんだ?

 今、思いっきり戦っている最中なのに、服は脱がないだろ。

 いや、これで女性が動きにくいローブを着ていたりするなら別だが、上半身は長袖の服にマント。下半身に至っては、短い短パンとブーツだけだからな。

 蹴り技主体なら、十分動き易い格好だと思うのだが。


「……この人魚族の女性は何を言っているんだ?」

「だって、貴女……目の前に居るのは、私の夫アレックスなのよ!? そのスラっとして柔らかそうな太ももを、あの人に開いてもらいたいって思うでしょ!? 私なんて、開脚したくても出来ないのよっ!?」

「ま、まぁ。人魚だし、下半身がヒレだし仕方が無い……って、それと私が服を脱ぐのと何が関係あるんだ?」

「脚を開きたくならないの!? 沢山触ってもらって、激しく突かれたいと思わない!?」

「よく分からないが、突かれたいとは思うな。まだこの男から一度も攻撃されていないからな。私の拳を受け止めたんだ。良い突きが放てるんだろ?」

「えぇ、そうなの! 凄いのよっ! 一突きで意識が飛びそうになるのに、それが何度も何度も容赦なく……素敵っ!」


 あの、とりあえずラヴィニアは静かにしてくれないだろうか。

 あと、ラヴィニアの話を聞いて、目を輝かせるのは止めような、プルム。


「人魚の話は理解出来ないが、次は本気で行かせてもらうよ」

「あなた! 私も本気でイかせてっ!」


 ラヴィニアの言葉に一切耳を貸さず、獣人族の女性が大きく後ろへ下がった。

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