第496話 罠に掛けられたアレックス

「という訳で、ミリアちゃんも呼んで、今から皆で……」

「待った。……囲まれているな」


 ラヴィニアと話を続けようとして……ふと気付く。

 気配を消そうとして全く消せていない……全く戦闘を経験した事が無いであろう者たちに、この家が囲まれている事を。

 おそらく、普段は鍬くらいしか握らない村人たちだろう。


「あなた。囲まれているって?」

「この家の周りに十数人居るな」

「もしかして、ミリアちゃんみたいに、あなたの所へ来たのかしら?」

「いや、何人かからは殺気を感じる。とりあえず、皆の所へ」


 三人にパラディンの防御スキルを使用し、ダメージを肩代わり出来るようにした所で、風呂の中に居るラヴィニアを抱きかかえる。


「パパー! なにかはわからないけど、つちと、かぜがぎゅーって、たくさんあつまってる!」

「土と風が沢山集まっている? ……どういう事だ?」


 ユーリが何かを感じ取ったようだが、残念ながら俺には何の事かわからない。

 とりあえず、ラヴィニアを抱きかかえたまま、小屋から出ようとしたのだが、


「パパーっ! 扉が開かないよーっ!」


 ドアに走っていったニースが、困惑した表情を俺に向ける。


「ほほう。何か察したようだが、一歩遅かったな! 僕ちゃんが将来お嫁さんにするつもりだったリンダちゃん……その初めてを奪ったお前は万死に値するのだーっ!」


 ドアの外から聞いた事の無い声が聞こえたと思うと、続け様に「お前たちっ! やれっ!」という叫び声が響く。

 ドアを開かないようにして閉じ込めようとしている辺り、この小屋に何か仕掛けをしたという事か。


「ニース、少し離れるんだ。俺に任せろっ!」


 ニースの力では開かないドアの前で、ラヴィニアを抱えたままクルリと回転すると、その勢いを利用して蹴りを放つ。


「えっ!? ぐぼぇっ! ……な、何のスキルだ!? 奴はパラディンじゃないのか!? どうやって扉の前に積んだ石垣を内側から爆破させたんだ!?

「爆破? 何の事かは分からんが、お前が首謀者か?」


 皆と共に小屋から出ると、俺より少し年上くらいに見える男が、倒れ込んでいた。

 話を聞くに、扉の前に石を沢山積んでいたようだが……こいつはドアから離れていて、幸運だったな。

 蹴り壊した扉や、それで吹き飛んだ石が当たっていないようだし。


「ちっ! お前ら! そっちよりも、こっちへ来て俺を守れ!」

「しかし、もう点火しちまったぞ!? これ、どうやって止めるんだ!?」

「止められる訳ないだろっ! それより俺を守れっ!」


 何だ? こいつらは一体何を言っているんだ?

 その中の一人の目線の先を追ってみると、先程まで俺たちが居た小屋を囲むようにして紐が伸びており、その紐が燃えている。

 徐々に火が家に近付いていっているが……何となく嫌な予感がするな。


「≪水の刃≫」


 そう思っていると、俺の腕の中に居るラヴィニアが水魔法で紐を切断し、火も消した。


「んー、何だかわからないけど、とりあえず嫌な予感がしたから消したけど……構わないわよね?」

「あぁ、もちろん。ありがとう、ラヴィニア」


 咄嗟に対応してくれたラヴィニアを労っていると、


「あー、良かったー。流石にこんな事をしたら、タダでは済まなかったからな」

「そうだな。いくら村長の息子の命令とはいえ、家ごと崖の下に落とすなんてなぁ」

「そうだそうだ。相手が性欲オバケだとしても、やり過ぎだぁな」


 何やらホッと安心した様子の村人たちが談笑しながら、姿を消そうとする。


「≪閉鎖≫……お前たち。俺はともかく、俺の大切な妻や娘を巻き込もうとして、許す訳ないだろ」

「ど、どうなってんだ!? ここから先に行けねぇっ!?」

「ま、待ってください! 全ては、そこに転がっている、村長の息子が悪いんです! アイツが俺たちをそそのかしたんです!」


 纏めて結界の中へ閉じ込めた村人たちが、少し離れた場所に居る村長の息子とやらを指さす。


「ち、違うっ! お、お前たちだって俺が声を掛けたら喜んでついて来ただろ!? というか、こいつはマジで何なんだよっ! こんな奴がパラディンだなんて嘘に決まって……ぐはぁっ!」


 さて、全員最低一発ずつ殴っていくか。

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