第497話 小さな村の風習
村人たちを殴っていくと、動かなくなったので、ユーリと手分けして治癒魔法を掛けていく。
「≪ミドル・ヒール≫……さて、目を覚ましたな? そろそろ目的を話してもらおうか」
「も、目的と申しますと?」
「俺を崖から落として、村から追い出そうとしたんだろ? 何故そんな事をしようとしたんだ?」
「へ? 追い出すというか、殺……げふんげふん。す、すみません。俺がいいなと思っていて、いつか襲ってやろうと思っていたリンダちゃんが、貴方様に初めてを捧げ、凄く良かったー! なんて、友達同士で話しているのが聞こえてしまい、つい……」
なるほど。それで俺を追い出そうとしたのか。
ただ、その敵意を俺一人にだけ向けるならともかく、ラヴィニアたちを巻き込んだのは許せん。
「……って、待って。今の話からすると、そのリンダちゃんは貴方の恋人ではないのよね?」
「えぇ。奥様の仰る通り、恋人ではありません。ですが、今まで二十回ほど俺の恋人になるようにと説得してきました。そろそろ、恋人になってくれるはずなんです」
「うわぁ……気持ち悪い」
「いやいや。この村には、『嫌よ嫌よも好きなうち』という言葉がありまして、嫌がっていると見せかけて焦らしているんですよ」
「それは本当に嫌がっているだけよ!」
村長の息子の言葉を聞いて、ラヴィニアが物凄く引いているんだが。
「とりあえず、人が嫌がるような事はするな」
「ち、違うんですっ! この村には夜這いという、夜中に片想いの女性の部屋に忍び込むという文化があります」
「いや、ダメだろ」
「最後まで聞いて下さい。夜這いされる側は、本気で嫌なら相手を再起不能になるまで殴って良いんです。ですが、リンダちゃんは父親を呼ぶだけで、自分では僕を殴らない……つまり、まだそういう事が恥ずかしいだけで、決して僕の事を嫌いではないんです!」
「それは、リンダという女性が、人を殴ったり出来るような性格ではないだけでは?」
「違いますっ! きっと、リンダちゃんは十六歳になる誕生日になるまで待っているんです! 初めては誕生日にって決めているに違いないんですっ!」
村長の息子に付き纏われているリンダという女性は、俺が保護した方が良いかもしれないな。
あと、ここに居る村人たちは、村長の息子に唆させれた、同じように片想いをしている者や、俺のと比較されて夫婦仲が冷たくなった既婚者に、ただの嫉妬……って、俺と夫婦仲は関係ないよな?
ただの逆恨みだと思うのだが。
「あと、あの火のついた紐は何だったんだ?」
「あれは火薬です。魔物を追い払ったり、倒したりするのに使っているんです」
「火薬?」
「は、はい。本体に火を付けると爆発を起こすので、グレート・ボアは無理ですけど、それより弱いワイルド・ボアぐらいなら倒せます」
「それを小屋に……って、危ないじゃないか。それで小屋ごと崖の下に落ちたら、怪我をするかもしれないぞ?」
「あの、怪我で済むんですか? ……あ、やっぱり良いです。怖い答えが返ってきそうなので」
村人が何を言いたいのかよく分からなかったが、とりあえず歩いて帰れるくらいには回復しているようなので、次はないぞ……と、念押しをして終わりにする事に。
とはいえ、また何かしでかすかもしれないので、ここに居る十数人を、全員小屋の中へ入らせる。
「あ、あの。この小屋にこの人数は……」
「し、仕掛けが。崩れ易くする為に地面を……」
「もしも引火したら、俺たちは……」
村人たちが何かぶつぶつ言っているが、閉鎖スキルの結界を、小屋と同じ大きさまで広げたので、大丈夫だろう。
「……って、今度は俺たちの寝る場所が無いな」
「パパー! 昨日泊まった部屋はー?」
「なるほど。あそこなら部屋も多いし、水があるからラヴィニアも大丈夫だろう。そこへ行こうか」
「わーい!」
ニースの提案で、河から水を汲み上げている水車のある小屋へ行くと、ようやく就寝する事に。
……うん。わかってる。逢瀬スキルは使わないと怒られそうだしな。
ラヴィニアは水路へ。ユーリとニースが寝静まると、結衣が出てきてくれたので、色々と任せる事にして逢瀬スキルを使用する。
「アレックスさん! 遅いですー!」
今日はリディアから先に逢瀬スキルを使い、次にエリーのところへ。
一番大変なのは結衣な気もするが、
「え? 何を仰っているんですか? ご主人様を独り占め出来るなんて、ご褒美に決まっているじゃないですか」
と、とりあえず凄く喜んでいるので、お願いする事にした。
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