第228話 暴走するマミ
「な、何をする気なのっ!? そ、そんな子供の姿をしていても、貴方の正体が先程の蛇だという事は分かっているんですっ! 自警団の副隊長として、討伐……しますっ!」
「へぇ。普通の鉄で出来た剣を構えて、どうする気なんだ?」
「もちろん貴方を……えっ!?」
騰蛇が、小さく震えながらも剣を構えるジュリに歩み寄って行くと、小さな手でその剣先を掴む。
すると、鋭利な剣先が飴細工のように簡単に曲がり、形を変える。
「さっき自分で言っていたよな? 俺が蛇だって。その通りで、俺様は火を司る蛇だ。高温で鉄を柔らかくするくらい造作もないぞ」
「ひっ……ば、化け物!」
「化け物とは酷いなぁ。これでも俺様は……まぁそれはいいや。それより、アレックスからは攻撃するなって言われちゃっているからね。だから、自分からアレックスに服従したくなるようにしてやるよ」
「何を言っているの!? わ、私は自警団として……街を守るロードナイトのジョブを授かった者として、決して屈しません!」
「ふふっ……いつまで強がっていられるかな? あ、こんな奴にアレックスは手は出さなくて良いからね?」
騰蛇はジュリに何をする気なのか分からないが、あまりにも度が過ぎるようであれば助けに入らないと。
だが、そう思ったところで、先程騰蛇の炎によって壊れた壁の穴から、シャドウ・ウルフが駆け寄って来ているのが見えた。
先にそっちを何とかしなければと、穴に向かって走り出すと、
「や、やめてっ! もう抵抗する気はないポン! 命だけは助けて欲しいポン!」
背後から迫るシャドウ・ウルフに気付いていないマミが、俺に命乞いを……って、説明している暇が無いっ!
「マミ、動くなよっ!」
「やだぁぁぁっ! 未だエッチもした事ないのに、死にたくないポーンっ! やだやだやだやだぁぁぁっ!」
剣を抜き、シャドウ・ウルフを倒そうとした所で、子供の姿のマミが泣き出し……異形の何かが現れた。
「ワガナハ、アスモデウス。ワレヲ、ショウカンシタノハ……」
「邪魔だっ! ≪ホーリー・クロス≫」
泣き叫ぶマミが、無意識に変な魔物を出現させたようなので、さっさと黙らせ、先にシャドウ・ウルフを倒す。
それから、他のシャドウ・ウルフが入って来ないようにと、石の壁で穴を塞いだ。
何とか間に合ったと安堵していると、
「ヨクモ……ユルサヌ! ユルサヌゾッ!」
アスモデウスと名乗った魔物が向かって来る。
あまり強い魔物とは思えなかったが、意外にしぶといようだ。
……もしかして、聖属性に耐性がある魔物なのか?
だったら、
「≪フレイムタン≫」
ヴァレーリエから貰った、炎の剣を生み出すスキルを発動させた。
「何それ! アレックス……カッコいい!」
「ふふん。アレはウチのスキルなんよ」
「いいなぁ……あ! こんな感じか?」
「ちょっ! アンタ、どうして一度見ただけで、ウチのスキルが使え……って、ちょっと違くない? 何だか槍っていうか、アレックスのアレっぽいんだけど」
騰蛇とヴァレーリエが何か話しているが、それはさて置き、手にした炎の剣でアスモデウスを斬り付ける。
……が、あんまり効いていなさそうだ。
炎にも耐性があるのか?
だったら……こうだっ!
「≪ホーリー・クロス≫」
炎の剣でパラディンの攻撃スキルを使用し、紅い十字の斬撃がアスモデウスを斬り裂くと……今度は効いたようだ。
どうやら聖属性の攻撃は効いていたが、ただ体力が高かっただけか。
「アレックス! カッコいいー! じゃあ俺様も……こんな感じかな」
「って、アンタ! あの人間族の女は攻撃するなって、言われてたじゃない! そんな槍で突いたら……あぁ、そういう事?」
「ふふ。殺傷能力は無くしているよ。さぁ、この女は、いつ堕ちるかな?」
「うわぁ。本物ならともかく、アンタの作った偽物をお尻になんて……でも、シェイリーやモニカって人間の女は、そっちでもしてたっけ」
騰蛇とヴァレーリエは何をしているんだ!?
横から聴こえて来る声で、そう思ったのだが、
「クッ。ダガ、コノママデハ、オワラン! コレデ……ドウダッ!」
アスモデウスが霧散し、マミを包み込む。
「えっ!? な、何!? この黒いのは何!?」
「ワレハ、シキヨク……キサマノ、ナカマハ……」
マミを俺の仲間だと思い込んだアスモデウスが、死の間際にマミへ何かをしたらしいが、一体何をしたのだろうか。
シキヨクが何か分からずに様子を伺っていると、
『貴方は、魔王のしもべである悪魔アスモデウスを倒しました。よって、エクストラスキル≪継承≫を授けましょう』
時々聞こえてくる、あの声が聞こえて来た。
……って、待ってくれ。
さっきのマミが召喚した魔物は悪魔だったのかよ!
随分と弱かったのだが、あれでエクストラスキルを貰って良いのだろうか。
『継承スキルは、貴方に……』
「あぁぁぁっ!」
謎の声がエクストラスキルの説明を始めた所で、アスモデウスの最期の攻撃? をされたマミが苦しみだした。
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