第22話 右隣の龍と左側の虎……もとい、リディアとエリー。正面のニナ

「えー、こほん。一先ず、エリーも落ち着いてくれたみたいなので、最後に自己紹介を頼む」


 一時は、この家が消し飛ぶのではないかと思える程に、エリーの右手へ魔力が集められていたのだが、必死の言い訳――もとい説得により、何とか事なきを得た。

 ただ、未だにジト目だが。


「アレックスの幼馴染で、アークウィザードのエリーよ。アレックスとは家が隣同士で、三歳の頃からずっと一緒に過ごしてきて、互いのベッドで一緒に眠ったり、一緒に遊んだり、アレックスが眠っている間に……こほん。最後のは忘れて。それから、十五歳からは一緒に冒険者となり、三年間寝食を共にしてきた仲なのよ」

「そうだな。俺とエリーは同じ冒険者パーティで……って、途中で何か言い掛けなかったか?」

「き、気のせいよ。気にしちゃダメ」


 エリーが、しまった……とでも言いたげな表情を浮かべているのは何故だろうか。

 というか、さっきは本当に何を言いかけたんだ?


「とにかく、私はアレックスとは凄く仲が良いの。そういう訳で、色々とよろしくね。リディアさん」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いいたしますね。アレックスさんのお友達のエリーさん」


 何故だろうか。

 エリーの背後に虎が。リディアの背後に龍が見えるような気がする。

 いや、もちろん気のせいなのだが……疲れているのだろうか。


「お兄さん。ニナがまた仲間外れだけど、今回はお兄さんの言う通り、仲間外れでいいや。何か怖いよー」

「そ、そうだな。二人が何に張りあっているのかは分からないが、変なオーラが見える気がするんだ」

「あ、お兄さんも? ニナにも見えるよ。炎と雷が見える気がするんだー」


 エリーとリディアは互いに仁王立ちになって、目が笑っていない笑みを浮かべている。

 一先ずそこには触れないで、ニナと一緒に食事の後片付けを済ませた後、


「えーっと、リディア。シャワーを頼めるか?」

「はい! もちろんですっ!」


 リディアに声を掛けると、今度は嬉しそうに自然な笑みを浮かべてくれた。

 うん。やっぱり普段通りのリディアの方が良いな。


「くっ……アレックス。知っていると思うけど、水魔法なら私だって使えるんだけど!」

「確かに知っているが、エリーの水魔法ってウォーター・カッターとかだろ? あんなのをシャワー代わりにしたら、大怪我しそうなんだが」

「あ、アレックスなら大丈夫よ」

「いや、確かに俺なら大丈夫かもしれないが、俺以外はダメだろ」


 というか、俺だって攻撃魔法で身体を洗うなんて、嫌なんだが。

 一日の汚れを落とすシャワーが、何かの罰みたいになってしまうしさ。

 とりあえず、シャワーを浴びる為、着替えを用意して服を脱ぎ始めた所で、


「あ、アレックス!? ふ、服を脱いで何をする気なの? そ、その……わ、私だって、こういう事になるかもとは思っていたけど、やっぱり初めては少し緊張するというか……」

「エリー。これから、お兄さんやリディアたちとシャワーを浴びるから、早く脱いだ方が良いと思うよー?」

「えっ!? に、ニナちゃんまで脱いで……え? えぇっ!? ど、どういう事なのっ!?」


 背後から困惑するエリーの声が聞こえてきた。


「エリー。ニナの言う通りだ。ここでシャワーを浴びるには、リディアに水を出してもらわないといけないから、皆で一緒に浴びるんだよ」

「皆で……って、アレックスも?」

「まぁそうなる訳なんだが……俺は基本的に後ろを見ないようにするから、それで許してくれ」

「うぅ……わ、分かったわよ」


 そう言って、服を脱ぐ音が聞こえて来たから、エリーも脱ぎ始めたのだろう。


「そうだ。エリー、すまないがシャワーを浴びている間、ニナを抱きしめてやってくれないか?」

「……え? ど、どうして!?」

「いや、ニナはドワーフだから、寒さに弱いらしいんだ。で、昨日はシャワーの間リディアに抱きついていたんだけど、そのせいで大事故が起こってしまってな」

「事故? 何があったの?」

「そうだな。思い出したくないというか、二人に思い出させたくない大惨事になったんだ」


 リディアとニナを守る為とはいえ、至近距離で……いや、これ以上思い出すのは止めておこう。

 俺までダメージを受けてしまう。

 それから、チラチラと俺の身体を見に来るニナを追い払っていると、


「お、お待たせ……ぬ、脱いだわよ」


 エリーも準備が出来たようだ。


「……お、大きければ良いって訳ではないんですからっ!」


 リディアがよく分からない事を言いながら、若干悔しそうにしているのだが、何の話なのだろうか。

 一先ず、リディアの言葉は置いておいて、シャワーを浴び、何もやらかさないようにと、慎重に小屋へ。

 無事に全員の着替えが済んだので、寝る準備を進めていく。


「じゃあ、そろそろ就寝なんだが……エリー、毛布が二枚しかないんだ。悪いが、誰かと一緒に使って欲しいんだが……」

「そ、そうね。私は……ひ、人見知りするから、アレックスと一緒じゃないと眠れないわね」

「エリーが人見知り? そんな事は無いと思うんだが」

「くっ、互いの事を知っているのが裏目に……こほん。で、でも、幼馴染で昔から一緒に眠っていた訳だし、私とアレックスが一緒に寝るのが良いと思うの」


 確かに同じベッドで寝ていたが、それは五年くらい前の話だと思うのだが。

 ……しかし、よく考えたら、俺が毛布無しで寝れば良いだけだな。


「あー、やっぱり俺は毛布無しで……」

「アレックスは、私と一緒に寝たくないの?」

「いや、寝たくないというか、その……幼馴染とは言っても、俺は男でエリーは女性だしさ」

「ふふっ……なんだ、ちゃんと私の事を女として見てくれてるんだ……」


 エリーが何かを呟いた直後、


「ダメですよ。私は夜が怖いので、いつもみたいに一緒に寝て貰って、アレックスさんに守って貰わないと困ります」

「へぇー。アレックスは、リディアさんとは一緒に寝れるけど、私とは一緒に寝れないんだ。ふーん……」

「待った! そうじゃなくて、リディアは闇が怖いと言うから……」


 リディアの言葉で再びエリーがジト目になってしまった。


「そもそも、エルフが夜を怖いって、何を言っているの? 人間よりも夜目が効くのに」

「何の事でしょう? 何を仰っているか、よく分からないです」


 誰と誰が一緒に寝るかという、割とどうでも良い事で揉めていると、


「もー、昨日と一緒でいいよー。はい、リディアはお兄さんの右側。エリーは左側ね。そしてニナは、えーいっ!」

「お、おい、ニナ!?」

「仲間外れはイヤだもーん! みんな、おやすみー」


 ニナが俺たちを座らせた後、俺を押し倒すようにして、ニナが飛びついて来て……俺の胸の上に重なって寝始めた。

 確かに昨日と同じと言えば同じだけど、どこで寝ようとしているんだよっ!

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