第259話 レナのお買い物

「とりあえず、毛布を増やしたいな」

「アレックス。それなら、こっちの通りに多いポン」


 レナが交渉して得た金を奪おうとした男を自警団に引き渡した後、マミの案内で露店巡りをする事に。

 まだまだ魔族領に足りない物が多過ぎるからな。


「おっちゃん! それは高いわー。もう少しまけてーや!」

「いやいや、この毛布を触ってみてくれ。手触りが凄く良いだろ? こんな毛布、他所では売ってないよ」

「あ、じゃあ向こうの露店で買うから別にえぇわ」

「待った。だったら……これで」

「いやいや……これやな。あと……ここまで下げてくれたら、五枚買ーたろ!」

「流石にそれは……これで」

「無理やな。ここは譲られへん! ……これや!」


 えーっと、レナは全ての買い物でこのやり取りをする気なのか?

 いや、レナのおかげで得られたシーナ国の貨幣だからな。

 何も言わずに交渉が終わるのを待とう。

 マミもツキも唖然とする中で、小数点以下の戦いが繰り広げられ、


「お父さん、やったで! 十枚買う事になったけど、提示価格の七割引で買えてん!」

「そうか。レナは凄いな」

「えへへ……もっと、なでなでしてくれてえーんやでー!」


 満足そうなレナを褒めていると、呆れた様子のツキが口を開く。


「しかし、レナ殿。十枚もの毛布を、どうやって魔族領へ持ち帰るつもりなのだ?」

「あ……ま、マミさーんっ!」

「ジュリと相談して、何回かに分けて持って行く事にするポン。……その時には、またよろしくポン」


 レナに泣きつかれたマミが、やれやれといった様子で答えるが……後半は何かおかしくないか?

 あと、変な所を触ろうとしないように。

 それから、布やガラス製品を買ったり、メイリン経由で皆に必要な物を聞いて購入したりして……ある露店の前でレナが足を止めた。


「どうしたんだ、レナ? ……あれが欲しいのか?」

「いや、ウチやなくて、レイお母さんや、メイリンお母さんにどうかなって思って」

「ふむ。これはレナが交渉して得たお金だからな。好きなのを買ってあげたらどうだ?」

「ええの!? お父さん、ありがとー!」


 レナに抱きつかれ、どさくさに紛れて頬にキスされ……ほら、マミやツキが同じ事をしようとしているじゃないか。

 とりあえず二人を避けつつ、レナが選び終わるのを待つ。

 ちなみに、レナが見ているのは宝石があしらわれた銀製の装飾品なのだが、宝石にしては安過ぎる。

 なので、本物ではないのかもしれないな。

 俺と同じ事を思ったのか、それとも元から興味が無いのか、マミとツキは全く興味を示しておらず、ずっと俺に抱きついてくるが……どうやらレナの買い物が終わったらしい。


「お父さん。ウチは、この街へ残るつもりなので、これはお父さんから、レイお母さんとメイリンお母さんに渡してもらえますか」

「レナ?」

「あ、ツキさんも一緒やけど、ウチらは記憶と経験を共有してるし、大丈夫やで。だから、朝にお父さんがウチの胸に顔を埋めてくれたんも、皆に共有されているし、向こうで色々してくれたら、ウチも嬉しいし。という訳で、よろしくっ!」


 いや、俺が顔を埋めたというか、レナが胸を押しつけて来たんだが。

 しかし何となくだが、レナが選んだ二つの装飾品……というか、この露店に並んでいる商品からは、何か嫌な感じがするのだが。

 まぁただの気のせいかもしれないのだが、流石にレナの思いをむげには出来ないし、戻ったら二人に渡しておこう。

 とりあえず、大量の品物をジュリの家に持ち帰り、その中の何割かを俺と一緒に樽の中へ。

 マミとジュリに魔族領へ送ってもらって……いや、またするのかよっ!


「当然なんよ。アレックスが南の街で子作りしているのは知っているんよ! あ、あと、出来れば昨日の猛獣モードでして欲しいんよ」

「猛獣モード!? アレックス、どういう事ポン!? まだ私の知らないアレックスの凄さがあるポン!? 私もして欲しいポン!」

「とりあえず、レイを呼んで来ましょうか。ただ、参加されるなら覚悟してくださいね? ……一度経験してしまったら、もう戻れませんよ?」


 いや、ヴァレーリエは猛獣モードとか変な名前で呼ばないで欲しいんだが。

 レイに精力剤飲まされて、大変な事になっているだけだ……いやまぁ、その間は意識が無いんだけどさ。

 あと、マミは朝にしているし、サクラは変な事を教えるなっ!

 マミとジュリが引き下がるどころか、目を輝かせているじゃないかっ!

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