第350話 魅了状態の少女たち
王都へ向けて出発したはずだったのに、人攫いたちの馬車で再びエリラドの街の家に戻ると、そのまま自警団へ。
馬車ごと自警団に引き渡したのだが、子供たちの捜索願いが出ていないか調べたり、人攫いたちを投獄したり……物凄く時間が取られてしまった。
よく考えたら、この辺りの手続きはジュリがやってくれていたんだよな。
そんな事を考えながら、孤児院の建設予定地へ行くと、
「え? アレックスさん!? お早いお戻りですが、何かトラブルでもあったのですか?」
「あぁ、あったんだよ……」
「……あー、何となく察しました」
一早くケイトが気付いて出迎えてくれたのだが、俺のズボンを掴む小さな女の子たちを見て、雰囲気が変わる。
「こんにちは! 貴女たちも、アレックスお兄さんに助けてもらったのかな? 実は私もそうなの。ここは、安全に暮らせるから、安心してね」
ケイトがしゃがみ込み、女の子たちに視線を合わせて話し掛けると、
「アレックスにーちゃん。このひとはー?」
「君たちが暮らす家を管理しているケイトだ。それから、今こっちへ向かって走ってきているのがジスレーヌで、この二人が君たちの面倒をみてくれるよ」
「そーなんだー! えっと、よろしくおねがいします」
少し怯えた様子の女の子たちだったが、俺の背後から少しだけ顔を出し、ケイトにお辞儀する。
というのも、残念ながら助けた子供たちの内、二人の女の子は捜索願いが出ておらず、一旦こっちで預かる事に。
ジスレーヌを除いても、たった一晩で孤児が五人になるのは、ペースが早過ぎではないだろうか。
どうしたものかと考えていると、
「ご主人様ぁぁぁっ!」
「わー! はしってきたおねーちゃんが、アレックスにーちゃんにチューしたー!」
「アレックス。レヴィアたんもー!」
ジスレーヌが飛びついて来て……あー、ジスレーヌは解呪ポーションを飲んで魅了状態だったんだ。
そう思った直後、
「ご主人様っ!? 会いたかったですぅぅぅっ!」
「わぁぁぁっ! べつのおねーちゃんたちも、アレックスにーちゃんに……じゃあ、わたしもー!」
「いや、しなくて良いから。というか、レヴィアも抱きつくなーっ!」
ジスレーヌと共に助けた三人の少女たちも走ってきて、俺の身体をよじ登って来たんだが。
「……ん? あ、お父さん!? あの、暫く王都へ行かれると思て、三人にも解呪ポーションを飲ませてもーたで……」
「そういう事か……んっ!? わかった。落ち着いてくれ。頼むから!」
「にーちゃん、わたしもチューするのー!」
レナの言葉で、三人の少女も魅了状態だというのは分かったが、流石にこの子たちを力づくで引きはがす訳はいかない。
ジスレーヌたち四人とレヴィアがキスをしてくるので、新たに来た二人も真似しようとしてくるし……いや、本気でダメだっ!
昨日はジュリが魅了状態の少女たちを引き離してくれたけど、ユーリを魔族領へ送る為に、マミと一緒に出発してしまっているし……どうすれば良いんだ!?
「ふぅ、仕方が無いのじゃ。ケイトとレナは新しく来た二人を。魅了状態の子は、我とツキで引きはがすのじゃ。レヴィアは……父上で何とかするしかないのじゃ」
大人モードのミーアが来てくれたので、レヴィアを抱きかかえたまま一旦その場を離れると、
「ご主人様……もぉー! もっと愛し合いたいのにー」
「ご主人様に私の愛を伝えたい……そうだ! 手料理を作って……」
「いや、それはやめておくのじゃ」
ジスレーヌたちの魅了状態が解けたのか、落ち着きだした。
しかしこれは……ステラに来てもらうまで、俺は孤児院には寄れないのではないだろうか。
未だに腰へ抱きついているレヴィアを力づくで引きはがして様子を伺っていると、ケイトが新たに来た二人の少女を連れて来る。
「アレックスにーちゃん。どうして、にげちゃったのー?」
「えーっと、キスは……チューは、君がもっと大きくなって、好きな人が出来たら、その人にしてあげような」
「わたしアレックスにーちゃんが、だいすきだよー? わるいひとから、たすけてくれたもん!」
……うーん。こんなに幼い頃から、好きだとかって感情がある物なのだろうか?
ユーリが居ないから判断出来ないが、この子たちは魅了や呪い状態ではないよな?
「アレックスさん。女の子は、幼くても女の子ですよ?」
「え? どういう事だ?」
「見た感じ、六歳と八歳といった所ですけど、恋をする子は、この年齢でも恋をするものなのです」
ケイトはそう言うが、俺が六歳とか八歳の頃なんて、そんな感情は無かったと思うんだけどな。
……エリーに知られたら怒られそうだが。
結局、今日は王都へ行く事を諦め、リディアの人形を連れて戻って来たマミとジュリに運んでもらい、離れないレヴィアと共に魔族領の家へ帰る事にした。
ただ……家に帰るだけなのに、嫌な予感がするのはどうしてだろうか。
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