第756話 ドワーフの国の本部ブランシャール

「あっ、あっ、あひっ……と、止まった?」

「国境みたいな場所が見えてきたからな……というか、俺は一体何をしていんだ」

「あぁっ! しまった! モニカのバカ……もとい前衛的なアイディアに協力していたら、終わってた! アレックス! 私の番は!?」


 モニカが取っ手から降りてぐったりと倒れ、ザシャが慌てて俺の所へやって来たが、分身を解除し、衣服を整える。

 取っ手を動かさず、惰性で国境まで進むと、銀の国へ入る時と同様にドワーフの女性兵士に制止を呼びかけられた。


「このトロッコは……ドゥネーヴ国のか。という事は、貴方たちが王族自ら連絡してきた者たちか」

「おそらく。ドワーフの本部でこの子の家を探したいんだ」

「それも聞いている。この先を進めば、トロッコ置き場があるから、そこにトロッコを止め、二番の階段から上がるといい。後は、そこに居る者に聞けば教えてくれるだろう」

「そうか。助かる」


 ヴェロニクか、それとも銀の国の兵士か。

 どちらかは分からないが、事前に連絡をしてくれていたおかげで、スムーズに進む事が出来た。

 本部というだけあって、他のトロッコもあるので、ぶつからないようにゆっくり進み……トロッコの数が多いので、トロッコ置き場へ入る順番が回ってくるまで、かなり待たされてしまった。

 しかも、レールを切り替えてバックさせろと言われたのだが、トロッコをバックさせる方法が分からない。


「……よし。押すか」

「えっ!? あの、前後を切り替え……うわぁ。人が乗っている大型のトロッコを手で……」


 何故かトロッコ置き場の交通整理をしている女性が引いていたが、無事に駐める事が出来たので良しとしよう。

 一旦全員降りて、教えてもらった通りに階段を上がると、レンガで出来た立派な建物がある。

 どうやら地上に出たようだ……いや、出てない!? 地下の中に大きな空間を作って、そこに大きな家を建てたのか!


「ニナ。これは凄いな」

「そうだねー。洞窟の中に家を建てちゃうなんてねー」

「流石はドワーフの国の本部といったところか。ひとまず、中へ入ってみよう」


 建物の中に入ると、すぐに受付の女性に声を掛けられる。


「こちらはドワーフの本部、ブランシャールです。原則、ドワーフの方以外は入れないのですが、どういった理由でこちらへ来られたのでしょうか」

「実は……」


 何度目になるかわからないが女性にニナの事を話すと、少し考えた末に、三階へ上がるように言われた。

 階段を登って行くと、大きくて重厚な扉があり、


「お兄さん……ここ、執務室って書いてるよー?」


 何だか凄そうな雰囲気を醸し出している。

 とはいえ、ニナの故郷を探す為には入るしかないので、扉を開けると、鎧を着て槍を持つドワーフの女性二人が待ち構えていた。


「何用か」

「いや、受付の人に話をしたら、ここへ行くように言われたんだ」

「ふむ……ここはドワーフの女王様の部屋。失礼の無いように」


 そう言って、二人が道を開けると、奥行きのある部屋の一番奥に、大きな机があり、小柄な女性が座っていた。

 ……まぁ小柄といっても、先程の兵士の女性を含め、そもそもドーワフの女性自体が全員小柄なのだが。


「失礼します」


 中に入ると、壁沿いに武装した女性が四人ずつ……合計八人が直立不動で立っている。

 物凄く視線を感じながら部屋の中央へ進むと、最奥に居る女王と思われる女性が顔を上げ、


「あらー。ドワーフ以外の種族の方は随分と珍しいですねー。どういった御用でしょうかー?」


 思っていたのとはちょっと違うが、声を掛けて来たので、またもやニナの説明をする。


「なるほどー。そちらの女性を助けてくれたんですねー。ありがとうございます。そうですねー……デュルフェ家というのは、調べればわかると思いますよー!」

「おぉ、本当か! それは助かる!」

「いえいえー。ただ、それはそれとして、調べるのには結構な手間がかかるんですよー。沢山あるドワーフの国の、更に個人の家名を調べていく訳ですから」

「まぁ確かに」

「そこでー、人間族の貴方……みたところ、かなり凄い力を持っていますよねー? ちょーっと手伝って欲しい事があるんですー」


 何だろう。このドワーフの女王は、おっとりした様子ではあるが、油断してはいけない気がするのは俺だけだろうか。

 表情には出さずに警戒していると、予想外の言葉を口にする。


「実は、ここから南西に行ったところに魔族領というのがありましてー」

「え……魔族領!? そ、それがここに!?」

「えぇ。どうかされましたか?」

「いや、このニナの故郷も探していたんだが、それと同時に、その魔族領も探していたんだ」

「あらー。それは、都合が良い……こほん。神様のお導きかもしれませんねー」


 まさか、魔族領の情報が出て来るなんて……若干、女王がニコニコしているのが気になるが、ひとまず話を聞く事にした。

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