挿話158 身を隠すオティーリエ

 子供を助ける! と言って、女性騎士が突っ込んできた。

 ミオやマリーナの事だと思われるので、当然助けるというのは誤りなのだが、子供の為……と、人間が私に――ブラックドラゴンに向かって来るのは、中々出来る事ではないだろう。

 ……いや、これがアレックスなら普通に突っ込んで来て、私を吹き飛ばしそうだが、あの方は色々と例外枠だからな。

 しかし、どうしたものか。

 退けるだけなら、尻尾で弾けば事足りるのだが、相応のダメージを与えてしまうが……そうだ!


「なっ!? 氷のブレスっ!? 副隊長! 下がれっ! 死ぬぞっ!」

「くっ……子供たちが!」

「諦めるんだっ! それより一旦体勢を立て直すぞっ!」


 冷気のブレスで氷の壁を作り、騎士たちからこちらを見えないようにしたら、人の姿に戻る。

 気絶したままの二人と、マリーナとモニーも抱きかかえ、ミオと一緒に騎士たちの反対側へ駆けていく。


「ほほう。お主が逃げだすとは。てっきり相手を全滅させると思ったのじゃ」

「これまでの私なら間違いなくそうしていたけど、今はアレックスの救出が最優先よ」

「ふむ。それも本心なのじゃが、あの女騎士を助けてやろうと思った感じじゃな。まぁそれも良いのじゃ」


 ミオに内心を見透かされつつ走って行くと、倉庫のような建物があったので、一旦その中へ。

 武器庫らしく、幸い誰も居ないので、グレイスたちを起こす。


「ん……ミオさん? ここは? 私はどうして眠っていたの?」

「お主とフョークラは、オティーリエの急降下で気絶しておったぞ。それと、騎士たちに見つかったので一旦身を隠したのじゃが、どうやら騎士団の武器庫……のようじゃな」

「うぅ、恐怖で気絶するなんて。どうせなら、アレックス様ので気絶したかった……」


 フョークラが私と似たような思考だなと思っていると、


「しかし、何処にモニカたちは囚われているのか……」

「よりによって、ドワーフを助けに来た父上や母上たちを奴隷商人と間違えるなんて、酷い話です。許せません」

「間違いは誰にでもあるから仕方ないよー! それよりー、この人に聞いたら分かるんじゃないかなー?」


 グレイスとモニーが話していると、突然マリーナが聞き捨てならない事を口にする。

 この人に……って、誰か居るのか!?

 マリーナの視線の先、闇の中に目を向ける。

 奥にはマリーナの魔力しか感じられず……いや、その中に別の魔力が少し。しかも、何かが蠢いている……?


「むっ!? マリーナよ。もしかして、あの走り寄って来た女騎士を捕らえたのか?」

「うん。騎士さんなら、モニカたちの居場所を知ってるかなー? って思ってー」


 そう言うと、蠢く何かが近付いてきて……マリーナの触手に包まれた、繭のような丸い球体が、窓から差し込む月明かりでハッキリ見えた。

 そこから、触手が少し動き、女性の顔だけが出てくる。


「くっ……殺せっ! 子供の姿をした魔物に協力などしないっ!」

「えーっ!? マリーナは子供でも、魔物でもないよー? マリーナだよー?」


 これは……さっき私が殺さずに見逃した女騎士か。

 確かに、この騎士が道案内してくれれば、モニカたちの救出に大きく近づく。

 ただ、副隊長と呼ばれていたこの女性騎士が、外部へ情報を漏らすだろうか……いや、やらねばならぬ。

 アレックスの為に!


「……私たちは、騎士団が連れ去った、我々の仲間を取り戻しに来た。素直に居場所を吐けばそのまま解放しよう。だが、強情になれば、地獄を見る事になるだろう」

「ふっ……どうせ、先程のドラゴンは幻影の類だろう。子供の姿を装うような卑怯な奴らに何をされようが、私は屈しない!」

「まぁまぁまぁまぁ。オティーリエさんも、騎士さんも落ち着いて。こういうのは、私……ダークエルフの出番だから」


 そう言って、フョークラがニヤニヤしながら女騎士へ近付いていく。


「なっ!? だ……ダークエルフだとっ!? ま、待て! 話し合おう!」

「ふふふ。大丈夫、大丈夫。もしも男だったら死んだ方がマシって状態にしたけど、女性だからねー。気持ち良ーくなるだけだよー! あとで、私たちのご主人様に自らお尻を振っておねだりするメス犬……ううん。メス豚になるけど」

「や、やめてくれっ! 私はまだ処……」


 女騎士が何か言いかけていたが、フョークラに何かの薬を飲まされ……ダークエルフの毒か。

 ……便利だな。

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