挿話163 連携するアーチャーのベラ

「ふっ!」

「たぁっ!」


 第三魔族領へ行くにあたり、ハーパーさんを加えて、三人での連携訓練を始める事にした。

 勇者であるオーブリー様が強いのは当然としても、魔族が治める地へ行くのに、動きがバラバラだと、私とハーパーさんが足を引っ張ってしまう。

 私たちのせいで、オーブリー様が負傷するような事があってはならないからね。


「せいっ!」

「おぉ、なるほど。ふむ……」

「オーブリー様。いかがですか?」


 先ずはハーバーさんの実力を確認する事も含め……と、街からそう離れていない草原で、猪の魔物を倒した。

 私一人でも倒せる魔物ではあるけれど……


「うーん。動きは凄く良いと思う。ただ……俺様との相性が悪いな」

「僕は体術だからね。剣よりも手数が多くなるし、一撃必殺という訳にはいかないかな」


 そう、ハーパーさんも決して弱い訳ではない。

 ただ、強力な剣の一撃で魔物を倒すオーブリー様と、魔物の弱点を狙って矢を射る私たちと戦い方が違うのよ。

 そのせいか、オーブリーさんが戦いにくそうにしている。


「ハーパーの役割を変えてみようか」

「ん? 僕は体術しか出来ないよ? 剣や弓矢に、魔法の類は使った事がないんだが」

「いや、そうじゃないんだ。魔族領へ行けば、こんな場所とは比べものにならないくらい魔物が多いはずだ。だから、俺様が単騎で魔物に突撃している間、後方でベラを守ってもらいたい」

「なるほど。そうすると、僕はベラとの連携訓練をした方が良さそうだね」


 オーブリー様の実力を考えると、確かにその方が良い気もする。

 弓を使う私は接近されてしまうと、とにかく弱い。

 ダンジョンみたいに狭い場所で、前からしか魔物が来ないような場所なら問題ないけど、広い場所で囲まれてしまったら大ピンチだ。

 オーブリー様は私を庇いながら戦うよりも、魔物の群れの中へ突撃した方が強いだろうし。


「それと魔族領へ行くにあたり、あと一人か二人仲間を募ろうかと思うんだ」

「えっ!? オーブリー様っ!? 私に飽きて……」

「そんな訳ないじゃないか。そうではなくて、魔物や魔族との連戦になるだろうし、満足に休める場所もないかもしれない。だから、ヒーラーは必須かなと思ってさ」


 うぅ……まぁ確かに。

 怪我をしても治せない……なんて、死にに行くようなものだし。

 ステラがいれば誘うんだけど……今頃はもう、アレックスっていう鬼畜王と一緒にいるはずだから、誘えない。

 鬼畜王の許へ行って結構経っているはずだし、既に妊娠していてもおかしくないしね。


「し、仕方ないですね」

「あぁ。じゃあ俺様は冒険者ギルドでヒーラーを探してくるから、二人は連携の訓練をしていてくれ」

「あぁ、わかった」


 オーブリー様が街へ向かわれたので、私たちは魔物を探して草むらを移動する。

 ……けど、そもそも数が少ないのと、いたとしても弱い魔物なので、あまり訓練にならない。


「ハーパーさん。森の中へ入ってみましょう」

「そうだね。ここだと、あまり連携訓練にならないからね」


 街から少し離れ、森の中へ。

 早速魔物を発見したけれど、ここでも余裕で倒せてしまう。

 ……待って。よく考えたら、私たちは魔物を倒しに来た訳じゃない。

 互いの連携を……阿吽の呼吸で動けるようになる事が目的なんだ。

 だったら……


「ねぇ、ハーパーさん」

「ん? ……って、ベラ!? どうして脱いで……」

「ふふっ、ここは正直じゃない。……こほん。お互いの連携強化の為に、互いの気持ちや考えが分かるようにするのって大事よね?」

「なるほど。確かに……ベラは、ここが好きだよね?」

「――っ! そ、そうだけど、違うのぉ。今は、相手の好きな場所ではなくて、して欲しい事を読み取る訓練なんだからぁ」


 という訳で、昨日は攻めた事がない場所へ舌を伸ばす。

 ここは予想外だったみたいで、ハーパーさんがビクンって身体を跳ねさせ……って、違った。

 相手の気持ちを読まないといけないから、驚かせちゃダメよね。


「んぅっ! ち、違うのぉ。今は後ろよりも……」

「じゃあ、こっちかな? 立っていられないなら、そこの木に手をついて……」


 れ、連携訓練って、難しいけど、好き……かも。

 森の中でハーパーさんと、たっぷり連携した。

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