第646話 リス耳族の結婚式

「それでは、これより次女ノーラと長女ノーマ、その夫アレックスとの結婚式を執り行わせていただきます」


 サムエルの村の傍にある聖域……というか霊樹の傍で、ノーラの父親が他のリス耳族の者たちへ結婚式の開催を宣言する。

 人魚族であるラヴィニアの時は、とりあえず皆で食事をするといった感じだったが、リス耳族は木に結婚を誓うようだ。

 俺たち人間の場合だと、神に結婚を誓う事が多いが、種族が違えば文化も違うし、リス耳族は木と共に暮らす種族だから、木がとても大切な存在なのだろう。


「……羨ましい。レヴィアたんも、こういうのしたい」

「我はアレックスの子種さえもらえれば、別に何でも良いのじゃ」

「人魚族とは形式が全然違うのね」


 参列客……という表現で良いのか分からないが、参加者の中に混ざっているレヴィア、ミオ、ラヴィニアが喋っているが、ノーラとノーマの結婚式なので静かにしような。

 とはいえ、あくまで木に結婚を宣言する事が主目的らしく、俺やノーラの服装もいつも通りだが。

 ちなみに、俺もノーラも式の進行が全くわからず、小声でノーマが何をすれば良いか教えてくれているので、ただただそれに従う。


「……次は、アレックスさんとノーラがキスよ。そして、次は私とだから」

「……わ、わかった」

「では、新婦ノーラに、新郎アレックスは誓いのキスを」


 ノーマに言われ、父親の言葉の後にノーラとキスを交わすと、


「お兄さん……えへへ。これでボクも子供が産めるね」


 突然ノーラが驚きの発言を……いやまぁ、子供がいてもおかしくはないんだけどな。


「ノーラ。アレックスさんとの子供も出来ていたのか。これはめでたい! まさか早くも孫の話が出来るとは」

「ん? お父さん。子供は今出来たんじゃないの? お兄さんと結婚したし」

「……んん? ……あー、こほん。それでは、次は新婦ノーマと新郎アレックスは誓いのキスを」


 えっと……もしかしてノーラは、結婚したら子供が出来ると思っているのか?

 いや、もちろん結婚してから子供を……げふんげふん。

 とりあえず、父親もノーマも、不思議そうにしているノーラを微笑ましく見つめて……うん。何やら、いろいろと察したようだ。


「うぅ……ご主人様。次は是非私と子作りを……」

「ねぇねぇ。結婚式をすると、子供が出来るの? プルムも、お兄さんの子供が欲しいなー」

「プルムさんは、既にアレックス様の子供みたいな分裂体が居て……あ、お世話になってます」


 モニカとプルムとフェリーチェは、とりあえず黙っておこうか。

 それから式は順調に進んでいき、無事に終了する。

 どうやら、ラヴィニアの時のような披露宴というか、パーティは無いようだ。

 だがその一方で、式の延長戦だと言われ、ノーラと共にノーマの部屋へ呼ばれた。

 とりあえず行ってみると、ノーラの母親と見知らぬリス耳族の女性が数人居る。


「ノーラ。今まで離れていて、大切な事を教えてあげられていませんでした。今から母親として、ノーマと一緒にそれを教えたいと思います」


 ノーラの母親が真剣な表情でノーラに話しかけ、ノーラも無言で頷いているが、俺はここに居て良いのだろうか。

 何やらリス耳族の伝統とか、秘密とかそういう類いっぼいのだが。


「アレックスさん。ここに居る五人の女性たちは皆私の友人だし、こっちの三人もノーラのお友達で、全員独身だから心配しないでください」

「あの、何の心配なんだ? というか、今から何が始まるんだ?」


 見知らぬ女性たちがノーマとノーラの友人というのは分かったが、何をするのかは教えてくれない。

 ただ、その友人たちがノーラに心配する目を向けていたり、何かを期待するような目を俺に向けているのは何故だろうか。

 それから、母親が何か決意を固めた表情を浮かべると、何故か服を脱ぎだした。


「え? あの、何を……って、ノーマも!?」

「今から、ノーラに子供の作り方を教えます。

「え? お母さん? ボク知ってるよ? 結婚したら子供が出来るんだよ?」


 あ、さっきの結婚式でのノーラの発言のせいか。


「ノーラにちゃんと説明していないアレックスさんに拒否権はありませんので、実演にお付き合いくださいね」

「分身の相手は、私やお友達がするから、心配しないでね」


 これはもしや、何も知らないノーラを無理矢理襲ったと勘違いされているのか!?

 違う……違うんだっ!

 ノーラにはこういう事を教えないように、配慮して……って、話を聞いてくれぇぇぇっ!

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