第478話 航海と女性を守護する天后の力

 リディアのお腹の中に俺の子が……先程は出まかせだったと言っていたが、実は真実だったんだな。

 良かった……が、となるとリディアはやはり安静にしてもらう必要があるか。

 だが、今はリディアが凄く嬉しそうにしているし、後で話す事にしよう。


「天后よ。我はどうなのじゃ? 我もかなりの回数と、大量の子種をアレックスからもらっているのじゃ」

「残念ながら、ミオは未だのようですわ。ミオはエルフの女性よりも特殊なので、なかなか難しいのかもしれませんわね」

「くっ……何故なのじゃ。天后の力で必ず子を授かる……といった事は出来ぬのか?」

「流石にそれは出来ませんの。ですが、私の力は航海と女性の守護。ひとまず、そちらのエルフの女性を守りましょう」


 ミオと天后の話の後で、天后がリディアのお腹に手をかざし、その後で空に向かって手を掲げた。


「今のは一体何をしたのじゃ?」

「まず、エルフの女性にはお腹の赤ちゃんが無事に生まれるように、私の加護を与えました。余程無茶な事をしない限り、普通の生活を送っていれば母子共に健やかに育つ事でしょう」

「す、凄いっ! ありがとうございますっ!」


 羨ましがるミオと、物凄く嬉しそうにするリディア。

 俺としても、天后がリディアに与えてくれた加護は凄くありがたい。

 何ならエリーたちにも与えて欲しいくらいだが、ここまで連れて来る事が困難か。


「天后、ありがとう。俺からも礼を言わせてもらうよ」

「私は、全ての女性の味方ですわ。当然の事をしたまでですの。あ、でも、お礼としてアレックスのアレをいただけるなら、凄く嬉しいですが」


 そう言って、天后が俺に熱い視線を送ってくる。

 というか、後から駆け付けたレヴィアやミオも見つめてくるのだが。


「そのお礼には我も混ぜてもらいたいのじゃが……その前に、空に手を向けたのは何なのじゃ?」

「あれは、アレックスの船にも私の加護を授けましたの。この近くに泊めてあり、すぐ傍に人魚族が居る船ですよね? そちらの船も、余程の事が無い限り転覆せず、ほぼ揺れる事が無いようにしましたの」

「え? という事は、妊婦であるリディアが乗っても大丈夫なのか?」


 思わず確認すると、天后からその通りだという答えが返って来た。


「あ! そ、そっか。天后さんが加護を授けてくれなかったら、私はこの近くの森で待機しなきゃいけなかったんだ……あ、ありがとうございますっ!」

「ふふ、アレックスの傍に居たいですわよね? 私も同じですので、気持ちはよくわかりますの。とはいえ、流石に私がついていく分けには参りませんが」

「ふむ。では、所々で我が召喚するのじゃ。……とはいえ、誰が来るか分からぬ故、アレックスからは禁止されているのじゃが」


 あー、ミオの召喚スキルか。

 何故か、騰蛇が現れる事が多い気がするのだが……まぁ数える程しか使っていないし、まだ何とも言えないけど。


「そうだ。天后はアレックスのスキルを見る事は出来るのか? どうせアレックスの事なのじゃ。天后からも何かスキルを貰っているのじゃろ? 何かこう、子供が出来易くなる系のスキルは増えておらぬのか?」

「ごめんなさいね。アレックスがどのようなスキルを元々持っていたかを知らないので、何が増えたのかはわからないんです。ですが、私の力だろうと考えられるスキルが一つありますの」

「む! それは一体何なのじゃ? 女性の守護を司る天后のスキル……物凄く気になるのじゃ」

「はい。逢瀬というスキルで、アレックスの子を孕んで居る女性の所へ、意識を飛ばせるというスキルです」

「……ん? どういう事なのじゃ?」


 うん。俺も意味がわからないんだが。


「子を身籠った女性は、本来安静にして、家に居るべきですわ。しかしながら、それでは愛する男性――つまりアレックスに会えず寂しい想いをしてしまいます。そこで、このスキルを使用すると、アレックスの意識を奥さんの元へと飛ばし、会話をする事が出来るのです」


 要は、遠く離れた場所でも、エリーたちと会話が出来るスキルという事か。

 今は遠く離れているし、モニカのスキルで魔族領へ行っても、アレな事になってしまうので、中々エリーたちと話が出来ない事が多い。

 そういう意味では良いかもしれないな。


「うーん。天后のスキルの割には、イマイチ……待つのじゃ! アレックス、とりあえずそのスキルを使ってみるのじゃ」

「え? わかった。≪逢瀬≫」


 ひとまず、リディアの事を考えながら使用すると……分身を使っている時のように、目を閉じる事で視界を切り替える事が出来た。

 とはいえ、移動も身体を動かす事も出来ないので、本当に喋るだけしか出来ないようだが。


「アレックスよ。その状態で、分身スキルを使うのじゃ」

「あ、あぁ。≪分身≫」


 ミオの指示通りに分身スキルを使うと、普通に分身して俺を含めて十八体に……じゃない!?

 逢瀬スキルによりリディアの所へ行った俺の意識も分身して……何故かこっちの分身たちは身体があり、普通に動く。

 という訳で、俺を含め二十六体の分身が……って、待った! これはまた腰にダメージがっ!

 レヴィアに、ミオ! 天后もストップ……って、既にヴィクトリアやチェルシーたちアマゾネスの女性たちも居て……腰がぁぁぁっ!

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