挿話56 姉からの手紙を受け取ったシノビのツバキ
「お母さん、ツバキお姉ちゃん! 大変っ! サクラお姉ちゃんから、お手紙が来たよーっ!」
一日の勤めを果たし、少し遅めの夕食をいただいていると、バタバタと妹のナズナが走って来た。
「ナズナ。まだジョブを授かったばかりではあるが、シノビたる者、いつ如何なる時でも、足音は消しなさい」
「ご、ごめんなさい。ツバキお姉ちゃん。……って、それどころじゃないのー! サクラお姉ちゃんからお手紙が届いたんだってば!」
「あらあら。サクラちゃんが手紙だなんて珍しいわね。確か、メイリン様のお傍にお仕えしていたはずなのに、何かしら」
ナズナが持ってきた、サクラ姉からの私宛の手紙に、奥から母もやって来る。
まず、宛名を見てみると……ふむ。確かにサクラ姉の字だ。
封筒の裏を見てみると、緊急を示すシノビ文字が書かれていたので、急いで封を開け、中の手紙を読んでみる。
――ツバキへ。
メイリン様が何らかの方法で、かの塔から脱出された。
だが、誰かに救助されたのか、別の組織に捕らえられたのか、現時点では不明。
大陸の外に居られる事まで判明したため、私は転送装置でメイリン様の下へ向かう。
転送先がどのようになっているか分からぬが、二週間経っても続報が無い場合、私が死んだものとしてメイリン様をお守りしてもらいたい――
中身は全てシノビ文字で書かれており、六日前の日付となっていた。
ここシノビの里から、メイリン様が捕らえられていた城までは三日あれば行ける距離だが、サクラ姉がメイリン様を追って遠くまで行って居るという事だろう。
しかし、二週間とは悠長に待ちすぎではないか!? 本来ならば、今すぐにでもメイリン様の元へ行くべきではあるが……サクラ姉が何とかする自信があるという事か。
とはいえ、最悪の事態を想定して動いておかなければ。
「母上。サクラ姉からの手紙について、最悪の事を考え、私はメイリン様の元へ行く準備を致します」
「あらあら……困ったわねぇ。サクラちゃんなら何とかしそうだけど……」
「母上。我々はシノビです。メイリン様の事を考えるのが最優先です。一先ず、私が今請けている任務をナズナに引継ぎつつ、出発の準備を行います」
「まぁ。ツバキちゃんの任務……ナズナちゃんは大丈夫かしらー?」
「大丈夫かどうかではありません。やるしかないんです」
私と母上の傍で、ナズナがキョトンとしているけど……いや、もっとシノビの自覚を持って! というか、ナズナだけでなくて母上もっ!
既に引退しているとはいえ、どうして、こんなにおっとりしている母上が凄腕のシノビだったのだろうか。
……あ、あれかな? 私が苦手としている房中術が凄かったとか? シノビとしての能力が未だ開花していないナズナも、房中術だけは凄いっていう評価をもらっているらしいし。
母上もナズナも胸が大きいから……う、羨ましくなんてないっ! それよりも、メイリン様にお仕えする準備だ!
サクラ姉から連絡が無く、メイリン様の所へ行くとなれば、私も転送装置を使う必要がある。
転送装置では、持っていける物が限られてしまうので、よく厳選しなければ。
……
数日後、引継ぎを兼ねてナズナと一緒に任務を終えて帰ってくると、
「ツバキちゃん。大変よー! なんでも、中央神殿が全人員を投入してメイリン様を捜索するらしいわよー!」
「母上。おたまを持ちながら走るのはどうかと。火は大丈夫ですか?」
「あっ! いっけなーい! ちょっと待っててね」
家に着くなり、母上が走って来て……すぐに台所へと戻って行く。
捜索隊を出すという事は、中央神殿もメイリン様の行方を把握していないという事になるが……では、一体誰がメイリン様を!?
敵か味方かすら分からないというのは困る。
未だにサクラ姉から連絡は無いし、一体どうなっているのだろうか。
とりあえず、あの怪しい勇者信仰の中央神殿に囚われている訳ではないというのは朗報だけど。
……
更に数日経ち、ついにサクラ姉から指定された日が来てしまった。
だが、依然としてサクラ姉から連絡はない。
つまりは……そういう事だろう。
「では母上、ナズナ。行ってきます」
「ナズナちゃん。安全が確保できたら、連絡してね。あと、もしもサクラちゃんに会う事が出来たら……」
「母上。サクラ姉は、もう……」
「うぅっ、そうよね。で、でも……」
母上が泣き出しそうになっているので、視線をナズナに移すと、
「つ、ツバキお姉ちゃん。メイリン様と……さ、サクラお姉ちゃんをお願い。あと、ツバキお姉ちゃんも無事で居てね」
既に泣いていた。
気持ちは分かるけど、私たちは代々シノビの家系なんだから。
まったくもう。
一先ず、里で唯一の転送装置の所へ行き、メイリン様の元へと向かう事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます