第821話 クルセイダー
「君たち。賊の捕縛への協力、本当に感謝する。恥ずかしい話だが、こいつらはかなり大きな組織で、騎士団にも内通者がいるようで、ずっと裏をかかれていたんだ」
「これからは、こいつらを皮切りに、騎士団内の内通者の炙り出しも行うつもりだ。本当にありがとう」
捕らえた賊の数が多いからか、それとも手こずっていた相手だからか、来た騎士の数が十人程度になっている。
流石にこの全員が野盗の仲間という訳ではないと信じたい所だ。
「ところで、君はかなり強いようだが、騎士に仕官してみないか? 君のような強くて正義感に溢れる者こそ、我が騎士団は求めているんだ」
「いや、俺たちは俺たちでやる事があって、攫われたドワーフを助け出しに来たんだ。ターナの街へ行きたいのだが、どう行けば良いだろうか」
「そうか……残念だが、仕方がないな。ターナはこの国の首都で、かなり遠い。まずは北へ……向こうだな」
騎士が指し示したのは、俺たちが来た漁村がある方角だ。
どうやらあの老人は、最初から俺たちを襲わせるつもりだったみたいだな。
「わかった。ありがとう。では俺たちはターナの街へ向かう。すまないが、こいつらの事は任せるよ」
「あぁ、任せてくれ」
ひとまず、この街に用事はないので、早速出発しようとしたところで、一人の騎士が近付いて来た。
「クケケ……待て。攫われたドワーフの救出だと? ……悪だ。悪の臭いがする」
「……俺たちを疑っているのか?」
これには少し頭に来て、騎士といえども殴ってやろうかと思ったのだが、慌てて別の騎士が間に入る。
「待ってくれ! すまない。こいつは授かったジョブがクルセイダーという事もあって、悪事を許せないんだ」
「クックック……ターナに巨悪が潜んでいるな。分かる……分かるぞっ! 私はこの者と共に行き、巨悪を討つ……それこそが正義の使者としての務めっ!」
「あー……コイツがこうなったら、もう俺たちでは止められないんだ。一緒に連れて行ってくれ……とは言わない。コイツが勝手に行くから、後をついて行けば、ターナに着くだろう」
なるほど、クルセイダーか。
実際にクルセイダーのジョブを授かった者に会うのは初めてだが、パラディンと同じく聖属性を扱うジョブのはずだ。
ただ、防御重視のパラディンとは対照的に攻撃重視のジョブだが。
「クケケケ……私はクルセイダーのブレアだ。聖属性での攻撃に長けている。悪を滅ぼす為に手を貸そうではないか」
「俺はパラディンのアレックスだ。ドワーフの人攫いから、ターナの街という情報を得たんだ。すまないが道案内を頼みたい」
「クケッ……道案内だけでなく、悪を滅ぼそう。正義は私にある」
ちょっと変……いや、個性的な奴だが、悪い奴ではなさそうだ。
攻撃重視と防御重視でタイプは違うものの、共に聖属性攻撃を得意とする、対魔族向けのジョブとして協力していきたいところだ。
「くっ……エクストラスキルで光魔法が使えるようになり、ようやくアレックス殿の戦いの役に立てるハズだったのに」
「母上。ご心配なさらなくとも、母上には聖水という武器があります。クルセイダーといえども、聖水を作る事は出来ないでしょう」
「なるほど……確かに。私の聖水生成スキルを活用すれば……い、いや、しかし、聖水の作り方に問題があり過ぎる。この聖水は使えん!」
モニカとモニーが聖水について話していると、ブレアがそれに食いつく。
「ケェッ!? アンタ、聖水を作るスキルを持っているのか!? ならば、是非聖水をくれ! クルセイダーのスキルに、聖水を消費して発動するスキルがあるのだ」
「いや、生憎だがこのスキルは使う事が出来ぬのだ。他をあたってくれ」
「クックック。待て! 勿論タダとは言わん! 聖水を適正価格で……悪を討つ時なと、状況によっては、三割増だ!」
「金の話ではない。とにかく、作れないといったら作れないんだ」
「ケェェェッ! 何という事だ。悪を滅せねばならぬというのに! 悪を倒す私に協力しないお前も悪という事だな!?」
そう言って、ブレアが剣を……いや、流石にこれは止めないとな。
「待った。善良な一女性が嫌がっているというのに、それを悪呼ばわりするブレアの方が悪ではないのか?」
「クケッ!? な、何と……私は悪だったのか。ならば悪を討つっ!」
「……って、何をしているんだ! おい、ブレアはいつもこんな感じなのかっ!?」
ブレアが剣を自らの首に向けたので、慌てて止めて騎士たちに目を向けると、全員が俺から目を逸らす。
なるほど。普段から、こういう感じなのか。
……勘弁してくれ。
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