挿話105 海を渡ったアコライトのイライザ
船に揺られる事、数日。
これまでに貯めたお金を持ち、シーナ国の港町ヘウンゴへとやって来た。
ジョブチェンジしたいという私の願いの為に、色々と情報を調べ、、格安の船や宿を見つけてくれたグレイスさんには本当に感謝しかない。
「……イライザ。黄昏過ぎ」
「ふふ……船にね。酔っちゃって……」
「……安い船だから、仕方ない。けど、着いた」
「そうね。そして、まさかグレイスが一緒にここまで来てくれるなんて……ありがとう」
「……気にしない。私も……したいから」
相変わらずグレイスは小声なので、所々声が聞こえない事があるけど……とりあえず、宿ね。
外は暗いし、ジョブチェンジ出来る六合教っていう教会は王都にあるそうで、かなり遠いらしい。
それに何より、ここ数日はずっと船の上で暮らしていて、生きた心地がしなかったしね。
とにかく揺れないベッドで、ゆっくり眠りたい。
「……イライザ、そっちじゃない」
「え? でも、街はこっちよね?」
「うん。街はそっち。でも私たちはお金がギリギリしかないから、森で野宿」
……そ、そうよね。
これもジョブチェンジして、自分の人生を変える為よっ!
今頑張らないで、いつ頑張るのっ!?
ベッドでぐっすり眠るだなんて甘えた事を考えていないで、お金の節約と移動よっ!
可能なら魔物を倒して、ギルドへ素材を売るくらいの気持ちで居なきゃっ!
「でも、お腹は空くけど食べ物って、どうするの?」
「……その辺の魔物を狩る。イライザはアコライトだから、浄化魔法が使えるでしょ?」
「浄化魔法?」
「そう。魔物の肉に浄化魔法を使うと、安全に食べられると教えてもらった。食べ物がない時の緊急手段」
浄化魔法っていうと、ピュリフィケーション……かな? 戦闘系の魔法じゃないから、皆に伝えてなかったけど、使えると思う。
魔物……魔物かぁ。
ふふふ……好きなだけ魔物を倒せて、食費も浮くなんて、とても素敵なじゃい。
「グレイス! 行きましょう! 魔物を狩って狩って、狩りまくるのよっ!」
「……これまでみたいにベラの支援は無いから気を付けて」
「えぇ、大丈夫よ。早くジョブチェンジして、生まれ変わった私を、ベラさんに見せてあげなきゃっ!」
今回グレイスはついて来てくれたけど、ベラはステラさんの帰りを待たないといけないからと、フレイの街で一人残る事になった。
これまで殴りアコライトという中途半端な私をパーティに入れてくれていた優しい二人の為にも、頑張るのよ私っ!
「あっ、早速魔物ねっ! ……死にさらせぇぇぇっ!」
「……イライザは元気ね」
兎や猪といった食べらそうな魔物を狩り、早速夕食に。
グレイスが手早く火を起こし……凄い。グレイスさんは魔法を使えないのに。
「……って、いつの間に皮をはいだり、血抜きを終わらせていたの!?」
「……短剣の扱いには慣れて居るから。それより、浄化魔法をお願い」
「そうね。任せて……≪ピュリフィケーション≫」
私の言葉で、グレイズさんが切り分けていた魔物の肉が浄化され……されたよね?
実は初めて使ったんだけど……グレイスさんが調理し始めたので、きっと大丈夫なのだろう。
「グレイスさんは料理も上手なのね。それも短剣が得意だから?」
「……花嫁修業」
「え? ごめん、何て言ったの?」
「……何でもない」
グレイスさんが荷物袋から取り出したフライパンで、猪の肉をしっかり焼き、私の知らない葉っぱ? とかで味付けをしている。
少しすると、美味しそうなステーキが出て来た。
「いただきまーす! ……美味しいっ!」
「……魔物を調理したのは初めてだけど、悪く無い。香草で肉の臭みも消えて良かった」
グレイスさんが作ってくれた料理を食べ終え、後片付けを済ませて就寝……というところで、
「あ、あれ? 手足が痺れる……?」
「……イライザ。浄化魔法はちゃんと成功した?」
「……し、したと思う。たぶん……」
物凄く身体が寒い。
ウソ……私が浄化魔法を失敗したから!?
もっと、ちゃんとアコライトとしての経験を積んでいれば……。
「お? 夜だって言うのに、街の外に若い女が落ちてるぜ……げっへっへ。襲ってくれってことか?」
こんな時だっていうのに、下品そうな男がやってきた。
くっ! 普段なら、こんな野盗なんかに負けないのに!
「わ、私は六合教へ行くんだ! こんなところで……」
朦朧とする意識の中で、呻くように言葉を発し、気を奮い立たせようとすると、
「ちっ……こいつら六合教の信者か。仕方ねぇ……おい、運んでやれ」
襲われると思ったのに……何故かグレイスと共に馬車の荷台に乗せられ、毛布を掛けてもらえてしまった。
良かった……けど、一体何処へ連れて行かれるのっ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます