第779話 怒りのモニカ
「や、やめろっ! 見た目は女でも、俺は……くぅっ!」
イネスから貰ったゴッドハンドスキルで、モニカの身体を優しくマッサージしてやる。
モニカは……いや、モニカに限らないが、女性はイネスのこのスキルを好むからな。
だがモニカには、他の女性とは違う特性があって、このマッサージスキルを下腹部に続けると、
「はぅっ! ……ぐはぁっ! か、身体がっ! 身体が焼けるっ!」
身体から聖水を垂れ流し始め、ゲーアハルトが苦しみだす。
もちろん、モニカの身体には傷一つ付いていない。
だが、当然これでゲーアハルトを倒せるとは思っていない……というか、あくまでこれは隙を作り出す為の策だ。
先程、ゲーアハルトが白虎の中に居た時は、モニカが隙を作ってくれたので、その代替……つまり本命は、これだっ!
「≪清祓乃水≫」
時間が経過し、ある程度魔力が回復した事と、モニカの聖水で苦しむゲーアハルトに対し、セオリツヒメの浄化スキルを使用する。
「あ、アレックスよ。せっかくモニカの聖水でゲーアハルトが苦しんで居るというのに、それではゲーアハルトを聖水から解放するだけではないのか!?」
「いや、勿論これだけじゃない。皆、この水が止まったら一斉攻撃を仕掛ける。協力してくれ……ただし、俺が合図するまで、絶対に俺より前に出ないでくれ」
「えぇっ!? お兄さん。一斉攻撃って、モニカに!? ど、どうするの!?」
ミオとニナが慌てだすが、それを手で制する。
しっかりと様子を伺いってタイミングを見極め、浄化の水が引いたところで……次のスキルを使う。
「≪偽造≫」
偽造スキルで、全裸の俺の人形をモニカの近くに生み出すと、そのまま様子を伺い……動いたっ!
「今だっ! ゲーアハルトは俺の人形に憑依した。全員、一斉攻撃だ!」
「えっ!? ミオ。この人間の男が使ったスキルは一体何アル!?」
「なるほど……白虎よ。あのスキルは、術者に痛みなどが共有されない、ただの人形を作り出すスキルなのじゃ。だから、気にせず全力で攻撃するのじゃ」
白虎とミオが、一早く俺の狙いを理解してくれたようで、早速白虎が鋭利な岩を飛ばす。
「ぐぅっ!」
白虎たちに遅れて、皆が状況を理解してくれたけど……ニナは手が止まってしまった。
だがその一方で、ザシャとシアーシャは、俺の偽造スキルが見た目だけだと分かってくれているらしく、問答無用で攻撃してくれている。
「ニナ、無理はしなくて良い。少し待っていてくれ! ≪ホーリー・クロス≫」
白虎の岩に貫かれ、ザシャの闇の刃とシアーシャの魔力を受けた俺……の姿をしたゲーアハルトが苦しんでいるので、そこへ俺も攻撃スキルを叩き込む。
自分で自分の身体に攻撃するというのは少し嫌だが、こいつは絶対にここで倒すんだ!
「むっ!? これは……」
「モニカ、一旦下がるんだっ! 俺の姿をしたそいつは、さっきまでモニカの身体に憑依していたんだ!」
「なるほど。私の中に居た奴が、今はこの姿をしていると。……許さぬ! 私の身体を好き勝手にしてくれた報いを受けさせてやる!」
そう言って、モニカが剣を振るう。
セオリツヒメの力で、モニカの剣に掛かっていた聖水は流されてしまっていると思うのだが、俺の人形の身体だからか、モニカの剣で容易に貫かれる。
いや、モニカの剣が鋭いというのもあるか。
身体を乗っ取られていたからか、モニカの剣にいつもより力とキレがある。
「魔族よ……滅びよっ!」
モニカの剣が、ゲーアハルトの首を刎ねた。
「むぅ。流石の我も、アレックスと同じ容姿の人形の首を刎ねるのは躊躇ってしまったのじゃ。だが、それを易々と行うなど……どうやら乳女は、身体を乗っ取られた事がかなり頭に来ているようなのじゃ」
「気持ちは分かるアル。身体を乗っ取られている間は、自分の意志で一切身体を動かせないのに、視界や記憶はしっかり覚えているアル。ハッキリ言って、私も相当怒っているアル」
「なるほど。それは確かに苛立つのじゃ。乳女が、あれほどまでに冷酷な剣を振るうのも分かるのじゃ」
ミオと白虎の言う通りで、モニカが怒るのも当然だろう。
しかし、魔族を確実に倒したかどうかを確認する為、モニカにエクストラスキルを授かったか聞こうとしたのだが、
「アレックス殿。貴殿のスキルのおかげで助かった。礼を言う。だが、こちらは肌を露出させられている。すまないが、近付かないでもらえるだろうか」
頭を下げたモニカが顔を上げると、冷たい目を俺に向けてきた。
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