第755話 カオスな移動

 銀細工が有名なドワーフの国シルヴェストルに入ったが、今回はそのまま通過し、ドワーフの道を進んで行くと、道が二手に分かれていた。

 早速教わったブレーキを使い、トロッコを止める。


「お兄さん。右に行くと鉄の国アルカンで、真っすぐ行くと、ドワーフ連合国の本部だってー」

「確か、ニナの家名は鉄の国に多いって話だったよな」

「って、お爺ちゃんが言ってたねー!」

「だが、鉄が採れる場所は沢山あるって言っていたし……やはり本部へ行ってみるか」

「わかったー!」


 ニナと少し話し、今回は真っすぐ進む事にした。

 暫く進んでいると、突然レールが二本組に増える。


「ニナ。レールが増えたんだが……これは何だろうか?」

「うーん。たぶんだけど、本部って言うくらいだから、行き来するトロッコが多いんじゃないかなー? だから、すれ違えるようにしているのかも」


 なるほど。

 言われてみれば、このまま一組のレールで進んでいて、正面からトロッコが進んで来たら大惨事だよな。

 元よりスピードは落としていたが、気を付けて進まなければ。

 とはいえ、西大陸がかなり広いようで、延々と直進の道が続く。

 そして前方には他のトロッコの姿が見えない。

 という訳で、徐々にトロッコの取ってを下ろす力を少しずつ強めていく。


「お、お兄さん!? ちょっとずつ速くなってない?」

「まぁ前方に何もいないから……」

「……って、言ってる傍から、トロッコが来るよっ!」


 ニナに言われて見てみると、確かに前方からトロッコが……凄くゆっくりだな。

 とはいえ、こちらもゆっくり減速していって……あ、よく見たら隣のレールだから、ぶつかったりはしないのか。

 ちょっと安心したので、再びスピードを上げ、前方から来たトロッコとすれ違い様に手を挙げて挨拶しておいた。


「お兄さん。ニナ、思うんだけど……スピード出し過ぎじゃないかな?」

「そ、そうか?」

「うん。今のトロッコも、人しか乗っていなかったし、もっと小さなトロッコだったけど、人が走るくらいの速度だったよー?」


 うーん。そう言われても、余り遅すぎては白虎の救助が……もちろん、しっかり前を確認して、止まれる速度で走っているんだけどな。

 ニナの苦言にどうしたものかと考えていると、モニカがやって来た。


「ご主人様! 僭越ながら、私画期的なアイディアを思い付きました」

「ん? というと?」

「ご主人様が速過ぎる……アレは決して早くなく、丁度良いのですが……それはさておき、トロッコが程よい速さで動き、かつご主人様が気持ち良く運転出来るという方法です」


 気持ち良く運転……って、俺は早くニナを故郷へ帰し、かつ白虎を助けたいだけであって、スピード狂ではないのだが。

 しかし、そんな事をお構いなしに、モニカが説明を続ける。


「では、最初にこのトロッコを動かす取っての上に、私が座ります」

「そんなところに座って大丈夫なのか?」

「ご主人様の振り下ろしに耐える、丈夫で大きな取っ手ですので私如き問題ないかと」


 そう言って、取っ手の上にモニカが座る。

 随分と浅く、ギリギリのところに座ったな。


「次はご主人様が座った私の前に……密着するように立ってください」

「この辺りか?」

「はい。では、ご主人様のアレをここに。あとは私が上下に身体を動かせば、トロッコが……くっ! ご主人様が軽々と上下に動かしていたのに、こんなに取っ手が重いとは!」


 いやあの、モニカは何をしているんだよ。


「むっ!? アレックスよ。乳女ばかりズルいのじゃ! するならすると声を掛けるのじゃ」

「何をだよ! というか、何もしないって」

「ナニをしておるではないか! 我も混ざるのじゃ! ほれ、早う分身するのじゃ」


 モニカの謎の行動を見てミオがやってきたかと思うと、他の女性陣たちもやってくる。


「なるほど。トロッコの取っ手を動かす上下運動でアレックスのを……よし。私も協力してやろう。浮遊魔法の応用で、モニカの体重を軽くすればいけるはずだ……む? 取っ手自体が非常に重いな」

「え? ザシャ殿……うひぃっ! ご主人様のが……しかも持ち上げられては、一気に落ちてズドン! 持ち上げてはズドンと……こ、これは、壊れちゃうぅぅぅっ!」

「アレックスよ! 早く分身するのじゃ!」


 ザシャがモニカの乗っているトロッコの取っ手を上下に動かし……いや、マジで何をしているんだよっ!

 というか、このトロッコは後ろは鉱物を入れる籠のような形だが、前方の運転席は何も無いから、この状態で他のトロッコとすれ違ったら丸見え……誰か俺の話を聞いてくれぇぇぇっ!

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