第245話 奴隷商人と聖騎士……再び

「お前たち! 何をしているんだ!」

「お、おにーちゃん!」

「あぁ!? 何だ、お前は!?」


 先程の家に戻って来たのだが……少女を再び拐おうとしているのは、先程とは違う男だった。


「一応聞いておくが、お前は奴隷商人だな?」

「だったら何なんだ? 見ない顔だから言っておいてやるが、俺の後ろには……ぶぼぁっ!」


 まったく。一体、この街には何人の奴隷商人が居るんだ?

 リュウホウが先に捕まえた奴隷商人を解放したのかと思ってしまったが、他の奴が来ていたとはな。

 一先ず、少女を助けた所で、


「父上っ!」


 ツキの声が響き、左腕を矢がかすめる。

 その直後、馬車の陰や家の中など、周囲からわらわらと人が出て来た。


「ふはははっ! その矢には強力な毒が塗ってある。これでお前は、もう指一本動かす事が……げはぁっ!」

「スナイパーの矢をくらったハズなのに動けるとは……こいつ、グラップラーのクセに、毒耐性スキルを持ってやがる!」

「父上! あちらの屋根の上に、弓使いがおります! 私が……」


 駆け出そうとしたツキを止め、適当な大きさの石を拾うと、屋根の上の男に向かって投げつける。


「はぁっ!」

「はっ!? 投石であの距離を攻撃出来ると思って……はぁぁぁっ!? スナイパーぁぁぁっ! うごぁっ!」


 一度目の時とは違って多少は連携が出来る奴らだったが、毒や麻痺といった状態異常を多用する奴らだったので、パラディンの俺には効かず、結局ほぼ全員が同じ末路を辿る事に。

 ただ、一人だけ手を出さずに残しておいた相手が居るが。


「ど、どうして!? 私の踊りが効かないの!? まさか、男色家なの!?」

「……あー、君は踊りで相手を魅了したり、弱化するダンサーというジョブだな? 悪いが俺は、その手のスキルに耐性を持っている」

「そ、そんなっ! ズルいっ!」

「あと、君の仲間たちを見ていれば分かると思うが、俺との接近戦は止めておいた方が良いだろう。君の細い身体だと、最悪死ぬぞ? 脅しではなく、本当に」


 死屍累々といった感じで倒れる自分たちの仲間を見て、ダンサーの女性が腰から抜いた短剣を手放し、地面に落ちる。

 それをツキが遠くへ蹴飛ばしたところで、マミに頼んで助けた少女を家の中に連れて行ってもらう。


「さて……貴女には聞きたい事がある。素直に答えてもらえると手間が省けて助かるんだが」

「な、何でしょうか」

「先程……あそこで倒れている男が、俺の事をグラップラーと言ったな。腰に剣を差して居るにも関わらず、何故そう呼んだんだ?」

「そ、それは……貴方が剣を抜かないからだと思いますけど」

「だが、その男がグラップラーと呼んだのは、武器を持たない奴隷商人と、剣を持った男を殴り倒した時だ。まだ戦ってすらいないのに、剣を持っている俺をグラップラーだと断定するか?」

「さ、さぁ。それを私に聞かれましても……」

「ほんの少し前に、ここで同じ様に俺たちが倒した相手が、俺の事をグラップラーだと呼んでいた。貴女たちは、そいつらから何か情報を聞いていたんじゃないのか?」


 俺の言葉で、ダンサーの女性が一瞬目を逸らし、


「……な、何の事だかわかりません」


 あからさまに動揺していた。

 どう見ても黒なのだが、女性を――それも、おそらく俺より年下だと思われる相手を拷問する気にはなれない。

 考えられるのは、最初に俺が思った通り、リュウホウが奴らを解放したか、それとも奴らの仲間があの時の様子を見ていて、こいつらに伝えたか。

 もしくは、リュウホウ本人ではないにしろ、自警団の中にこいつらと繋がっている奴らが居る……といったところか。

 自警団が当初俺が想像していた組織ではなく、必ずしも正義の下に活動している訳ではないので、繋がっている奴が居たとしてもおかしくはないが。

 そんな事を考えて居ると、


「父上。この者の口を割らせましょう。シノビである私にお任せください」

「マミも手伝うポン! 悪い事をする人を野放しにしておけないポン!」


 ツキと家から出て来たマミがダンサーの女性を拷問すると言うのだが……ツキはともかく、マミはちょっと楽しんでないか!?

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