第669話 奴隷紋

「えっと……君は?」

「ウチ? そんな事より、もっと……」

「い、いや、待ってくれ……」


 ネズミ耳の生えた女性が、俺の制止を聞かずに抱きついて来て……うん。光って何かのスキルを貰ってしまった。


「ご主人様。ゴッドハンドスキルとビーストキラースキルが発動して、大変な事になっていると思います」


 結衣が冷静に状況を説明してくれているが、それよりも助けてくれないだろうか。


「と、とりあえず、グレイスを助けにいかないと。ザシャ……すまないが、闇魔法を解除してくれ」

「わかったよ。まぁ滅多な事では、アレックスが遅れを取るような事がないから、最初からそのまま突撃しても良さそうだったけどね」


 いやまぁ、ザシャの言う通りなのかもしれないが、グレイスを人質にされたりするかもと考え、慎重に行こうと思ったんだよ。

 ひとまず、ネズミ耳の女性をザシャに剥がしてもらって、改めて扉の奥へ。

 中はあまり広くなく、小さなローテーブルの上に、飲みかけのビンが幾つか置かれている。


「パパー! あっちー!」


 ユーリが何かを感じたらしく、右手の通路を進むと、手足を縛られて床に転がされている女性が五人も居て、その中にグレイスの姿もあった。

 真っ先にグレイスを助けたい気持ちもあるが、奥に居る女性の顔が真っ青なので、体調が悪そうな順に助ける事に。


「大丈夫か!? 今、助ける……≪ミドル・ヒール≫」

「あ……あぁぁ、ありがとうございます」

「悪いがちょっとだけ待っていてくれ。他の者の縄も斬るから」


 一人目の女性が泣きながら抱きついてきたけど、他にも弱っている者が居るので、順に治癒と解放をしていく。

 そして、最後にグレイスを解放する。


「あ、アレックス様ぁぁぁっ! う、嬉しいです。攫われたお姫様みたいに助け出してもらえるなんて、夢のようです!」


 ……何となくだけど、グレイスだけ他の四人とテンションが違わないか?

 というか、グレイスはジョブチェンジしたとはいえ、元前衛のローグだよな?

 まさか……いや、流石にそんな訳はないか。

 ある考えがふと頭を過ったが、その考えを頭の中で掻き消していると、ミオがグレイスにジト目を向ける。


「ふむ。まさかグレイスよ。アレックスに助けに来て欲しいから、わざと捕まったりはしておらぬな?」

「――っ! そ、そんな訳ないです……よ?」

「ほほう。しかし、攫われたにもかかわらず、随分と余裕がありそうなのじゃ」

「そ、それは、アレックス様が必ず助けに来てくれると信じていたからです」

「ふふ、まぁそういう事にしておくのじゃ」


 俺が口にするのは躊躇った事を、ミオがサラッとグレイスに問い……まぁその、これ以上は触れないでおこうか。

 実際、グレイスを救出しに来た事で、先程のネズミ耳の女性を含め、五人の女性を助ける事が出来た訳だし。


「皆、この街の者だろうか。ひとまず、犯人と共に兵士の詰所へ行こうと思っているが、構わないか?」

「ま、待ってください。助けていただいて非常に有難いのですが、私は……兵士のところへ行っても同じなんです」

「ん? どういう事だ?」

「その……私は奴隷なので」


 そう言って、女性の一人――牛の耳に似た耳が生えている女性が、太ももに描かれた紋章を見せてきた。


「この紋章は……何処かで見た事がある気がするな」

「奴隷紋です。これがある限り、私は何処へ行っても連れ戻されてしまうので」


 奴隷紋……あれか。ケイトにあった紋章か。

 だが、ケイトは助けた後で、いつの間にか紋章が消えていたんだよな。


「ユーリ。この奴隷紋は消せたりしないか?」

「うーん。のろいとはちょっとちがうから、むりかもー。でも、いちおう、せーすいをかけてみる?」

「そうだな。試してみる価値はあると思う。すまないが、一緒に来てくれ」


 牛耳っぽい女性とユーリを連れ、別の部屋へ。

 トイレを見つけたので、そこで女性に太ももを露出してもらうと、ユーリを抱きかかえる。


「あ、あの……その天使族の女の子のパンツを脱がせて、脚を広げさせたのは何故ですか!? いやあの、ちょ……待って! 助けてくれた恩人だけど、本当に待って! 私はノーマルなのっ! そういうプレイは……うぅ、あ、温かいよぉー」


 設置してあった紙でユーリを拭きながら……うん。先に何かの容器にユーリの聖水を入れて運んで来るべきだったな。

 ユーリが危惧した通り、残念ながらユーリの聖水では奴隷紋を消す事は出来なかった。

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