第107話 湖南の村が欲する品

 ユーディットの案内によって進んで行くと、


「ここか」


 木で乱雑に作られた柵に囲まれた、木の家が沢山見えてきた。

 見張りなどは居らず、柵の一部が簡単に開くようになっていたので、一先ず中へ。

 警戒心を与えない為に武器を収め、周囲に気を張り巡らせながら村の中を進んで行くと、


「アレックス様!」


 人影を見つけ、サクラが警戒する。

 というのも、村の中で見つけたのは、緑色の皮膚に長い尻尾を持つ亜人――リザードマンだ。

 サクラが潜ませている武器を取るため、自身のスカートの中へ手を入れた所で、


「こんにちはー。ここは何ていう村なのー?」


 ユーディットが無防備にリザードマンへ近付きだした。

 慌てて俺も剣を抜こうとして、


「天使族とは珍しいね。ここは湖の南側にあるから、湖南の村って呼ばれているね」

「そうなんだー。私たち、西から来たんだけど、村長さんとお話し出来るかなー?」

「あっはっは。いいよ、ついておいで」


 ……会話が成立している!?

 リザードマンって、魔物じゃないのか!?

 思わずモニカやエリーたちと、顔を見合わせていると、


「アレックスー。こっちだってー」


 ユーディットに呼ばれて、剣を抜こうとした体勢のまま固まっていた身体がようやく動きだす。

 ……危なかった。

 ユーディットが話しかけていなければ、魔物だと思って、攻撃している所だ。


「サクラも行こうよー……って、どうしてスカートの中に手を入れているの? おトイレ?」

「あ……な、何でもないんだ。何でも」


 俺と同じく、サクラも固まってしまっていたらしく、ようやく動きだした。


「拙者……修行不足でした。危うく、この村との関係を最悪の状態にする所で……」

「いや、あれは俺も想定外だ。だからサクラは気にしなくても……」

「アレックス様。このダメなシノビである拙者に、どうかその太くて大きい物でお仕置きを」

「何をだよっ! というか、さっきも言ったけど、俺も同じ事をやりかけた訳だし、お仕置きなんてする訳ないだろ」


 何故か残念そうなサクラを連れ、ユーディットと、案内してくれているリザードマンに追いつく。

 歩きながら周囲を見てみると、家の傍に小さな畑があり、豆っぽい植物が生えている。

 村の中では、リザードマンの子供らしき、小さな個体が遊んで居たりして、平和な村のようだ。

 ……改めて、俺たちが戦いを持ち込まなくて良かったと思っていると、村の中心にある少し大きめの家へ。


「村長。村の西から来たという客人をお連れしました。村長と話したいとの事です」

「今日は珍しく客人が多い日だな。今、一人目の客人が席を外した所だ。通してくれ」


 どうやら先客が居たらしいが、家の中に通してもらうと、俺より頭一つ分大きなリザードマンが居た。


「突然の訪問ですまない。俺はアレックスという。西から来たんだ」

「そうか。私はこの村の長、ヌーッティだ。人間族はともかく、天使族というのは珍しいな。……ところで、西から来たと言うが、この村の西には拒絶の壁しか無いはずなのだが」

「拒絶の壁?」

「うむ。我らの爪でも掘る事が出来ない程、硬い土の壁だ。しかも、それが雲にまで届くのではないかと思える程高い。あの向こう側がどうなっているのか、私の数代前の長ですら知らないと聞いている」


 あー、そうか。第四魔族領の上側はそこまで土が硬い訳でも無いのだが、下の方は押し固められて、めちゃくちゃ硬いって事か。

 ニナが鍛冶魔法で強化しているツルハシを使って、サクサク掘っていたから分からなかったよ。


「俺たちは訳あって、その壁……というか、崖の上の地に住んで居るんだ」

「な、なんと! 拒絶の壁の上には、人間族の村があったのか! しかし、あの壁のような崖をどのようにして降りて……まさか、後ろの天使族が一人ずつ運んだのか?」

「村……と言えば、まぁ村か。以前から少しずつではあるが、下へ降りる為のトンネルを掘っていて、それが今日完成したんだ」


 何か、長年謎の地とされていたみたいだし、二日でトンネルを掘ったと言ったら疑われそうなので、時間を掛けて掘ってきたという事にしておいた。


「なるほど、そういう事だったのか。しかし、あの壁に人間族が通れる程の穴を開けるなど……一体、どうやって?」

「幸い、俺たちの住む地では、鉄が採れる。だから、鉄のツルハシを作って……」

「な、何と! 鉄が手に入り、加工まで出来るのか!? ……もしや、アレックス殿たちが持っている武器や防具も、村で作られた物なのか?」

「いや、これは別の街で買ったものだが……俺の盾は村で作った物だな」


 そう言って、以前ニナが作ってくれた盾を見せると、


「素晴らしい逸品だな。……アレックス殿。我らは、己の爪や尻尾に自信を持っているが、それが通じぬ魔物が存在する事も知っている。どうか、鉄器を譲ってくれないだろうか」

「鉄で出来た武器や防具が欲しいという事か?」

「その通り。とはいえ、鉄製品であれば、武器や防具以外でも助かる。もちろん、タダとは言わない。とはいえ、人間の街のように通貨は無いから、この村で……いや、何なら周辺の村にも話し、アレックス殿が求める物を用意するから、交換してもらえないだろうか」


 どんな村なのかを見に来ただけなのに、突然商談? が始まってしまった。

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