第108話 リザードマンの村の生産物
「この村では、何が採れるんだ?」
「そうだな。一番は湖の魚や川エビだが、森の果物に、あと穀物や亜麻の栽培をしているな」
「亜麻?」
「うむ。種から油を取る事が出来、茎はリネンという上質の布になるぞ」
布か。
確かに、この家の机に掛けられているテーブルクロスや、カーテンは上質な布のようだ。
今のところ、衣類は冒険者ギルドから定期的に送ってもらう分しかなく、人形たちはウサギの革を身に纏っている。
流石に糸や布を作れる者は居ないが、布があれば服を作れる者が居るかもしれない。
「そうだな。俺たちは布が貰えると助かる」
「分かった。この村では栽培を担っていて、糸や布にしているのは別の村だ。急ぎ、手配しよう」
それから、リザードマンたちがどういう鉄の武器や防具が欲しいのかを聞き、思わぬ形で衣類問題が解決しそうだと思っていると、
「ヌーッティさん。戻りました……って、えぇっ!? 人っ!? 人が居るっ!?」
奥から赤毛の小柄な女性が――人間の女性が現れ、いきなり騒ぎだす。
「ど、どういう事っ!? ウチ、やっぱり夢を……いや、それなら、そもそもこの場に居らへん……でも、頬っぺたつねっても痛いやん」
「えっと、ヌーッティさん。こちらの方は?」
リザードマンの村に人が居るのか……と思っていると、
「今朝、村の者が森の中で彷徨っているのを見つけたのだ」
「う、ウチはレイって言うねん。悪いんやけど、街に連れて行ってもらえへんやろか?」
「……という訳なのだが、どうだろうか」
どうやら迷い人らしい。
だが、街から来たという事は、やはりこの村から街へ行く道があるという事なのだろう。
「それは構わないが、ヌーッティさんは街への道は分かるのだろうか」
「いや。我々が人間族を拒む事はないが、人間族の街は、我々を受け入れないであろう。その為、人間族との交流は皆無なのだ」
それは……確かにそうかもしれない。
実際、ユーディットを除く俺たちは、申し訳ないのだが、リザードマンをオークと同列の魔物として見ていたからな。
レイは……格好からすると、旅人だろう。
武器を持っているようにも見えないし、魔物から守りつつ、街への道を思い出してもらう……という事になるか。
「分かった。一先ず、レイはこちらの村で保護しよう」
「助かる。正直なところ、人間族の習慣などに詳しい訳ではないからな」
一先ず、互いの準備に数日を要するので、その後に互いの品を交換する事になったのだが、リザードマンは水気の無い場所を長時間移動出来ないらしい。
種族的な理由は仕方がないので、再びこちらから来る事を伝え、一旦家に戻る事に。
来た時と同じような隊列で、間にレイを加えて暫し歩き、村から離れた所で、
「いやー、助かったわー。改めて、ホンマにありがとうな!」
レイが話しかけてきた。
「いや、俺たちも街に行きたいからな。魔物からは守るから、街への方角を教えてもらえると助かる」
「ん? いや、ウチこの辺りは、ぜんぜんわからへんよ? なんせ、転送事故で来た訳やし」
「転送事故?」
「せやねん。ウチは色んな国を旅人しながら、様々な素材を探すファーマシスト……要は薬師やねんけど、移動費用をケチったんが悪かってんなー! やっぱモグリの転送屋はアカンな。森の中に転送されてもーて、半泣きやったわ!」
という事は、レイはあの村に歩いて来た訳ではないと言う事か。
「あー、悪いんだが、俺たちもここには転送で来ているんだ。だから、レイに街へ案内してもらおうと思っていてさ」
「えぇっ!? それってつまり……街に戻られへんって事なん!?」
「いや、いつかは戻れるとは思う。今から俺たちの家に戻るんだが、南に街があるのは確かだし、リザードマンの村の先に、街があるかもしれないし」
「なんや、南に行ったら街があるんやったら、行けるやん。魔物に気を付けながら行ったら良いんやろ? ウチ、こう見えて馬にも乗れるし、Dランクの魔物くらいなら、逃げられると思うねん」
レイがポジティブに色々と話しているけど……あ、エリーが「早く現実を教えてあげた方が良い」と言いたげに、俺を見つめてくる。
一先ず、石の壁で封じていた洞窟に着いたので、トンネルを歩きながら、ここが第四魔族領で何も無い地だと伝え、
「えぇぇぇーっ! 何やてーっ!」
レイの叫び声が響き渡る事になった。
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