第823話 ブレアのおすすめランチ

「ブレア。一旦あの街で昼食にしたいのだが……」

「クックック。巨悪を前に、のんびり食事をする時間など……」

「正義の鉄槌を振るう為にも、適度な休息は必要だと思うのだが」

「……確かに! クケケ……正義の為、おすすめの店を紹介しよう」


 という訳で、ブレアが居たテュレアの街と同規模の街へ向かい、先ずは街の門へ。


「ん? もしかしてブレア……なのか?」

「うげっ! どうしてテュレアに配属された十字架のブレアがこんな所に!?」

「というか、馬を歩かせて三人がかりで馬車を引いているのは何なんだ?」


 門にいる衛兵たちがブレアを見ていろいろ言っているが、ブレアの十字架という二つ名は何だろうか。

 あ、クルセイダーだし、俺のホーリー・クロスのような十字を切る斬撃がブレアの得意技だからなのかもしれない。


「クックック。この方達の身元は私が保証しよう。通るぞ」

「え……まぁブレアさん程の方がそういうなら」

「ククク……では、アレックス。この街は道が細いから、馬車を置いて歩いていこう。案内する」


 という訳で、グレイスに馬車を空間収納に格納してもらい、門でブレアの馬を預けて街の中へ。

 ブレアの言う通り街の中は道が細く、上り坂や下り坂を含め、複雑に入り組んでいる。

 街を囲む塀の外から見た時はわからなかったが、山の中に出来た街の為、このような造りになっているそうだ。


「クックック……この店だ。スープシノワーズという麺料理が絶品だ。食べてみると良いだろう」


 じゃあ皆でそれを……となり、早速食べてみる。


「お……美味いな」

「ふむ。何だか懐かしい気がする味なのじゃ。アリなのじゃ」

「父上。熱いのでふぅふぅしてください……美味しいです!」


 俺に続いてミオやモニーも舌鼓を打ち、皆で褒めていると、奥から料理人と思わしき者が出てきた。


「いやー、大勢で美味そうに食べてくれてありがとう。これ、サービスなんで良かったら食べてください」

「あ、何かすみません。だが、本当に美味しいですー! 今まで食べた事のない美味しさです!」

「嬉しいねぇ。お嬢さんはエルフかな? なら、これは鶏肉を使っているから、野菜メインのものを何か作ってあげよう」

「あ、エルフですけど、別に野菜しか食べない訳ではないので、気にしなくて良いですよー!」

「そうなのかい? 一応説明しておくと、これはアクーソスっていう煮込み料理なんだ」


 店側のサービスにフョークラが例を言っていると、突然ブレアが立ち上がる。


「ケェェェッ! 悪を煮込んだ食べ物だとっ!? 貴様っ! 私たちにそんなものを食べさせる気かっ!?」

「え? ……あっ! まさか、この人があの十字架のブレアなのかっ!? 何処かの店でアクーソスを出されて暴れ、店を壊した罪で十字架へ磔にされる刑を受けたっていう!」


 えぇ……十字架のブレアって、そんな理由なのか。

 とりあえずブレアを止めるか。


「ブレア、落ち着け。これは正義の食べ物だ」

「クケッ!? 正義の……食べ物? アレックス、どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。悪を煮込んだ料理……つまり正義が悪を倒して作った料理という事だ」

「クックック……なるほどな。そういう事なら、正義の力で悪を討つクルセイダーの私が食さない訳にはいかぬ! ……これも美味しーい!」


 うん。とりあえず、お店の人たちもホッと胸を撫でおろしているし、上手くいったようだ。

 だが、実際この料理も旨い。

 鶏肉のトマト煮……といった感じだろうか。

 ブレアも落ち着いたので、改めて食事を続けていたのだが……再びブレアが突然立ち上がる。


「ブレア? 今度はどうしたんだ? 正義の力が……」

「クケェッ! その正義の力を使う……時だっ!」


 そう言って、ブレアが突然店から飛び出した!?

 店の外では、狭い道を馬車が無理矢理通ろうとして、立往生しているのだが、


「悪は滅びよ! 喰らえ! 我が正義の力……≪セイクリッド・クロス≫」


 ブレアが剣で馬車を斬った!?

 というか、いきなり馬車を破壊するなんて、何をしているんだっ!

 大慌てで店を出ると、壊れた馬車の中から、ドワーフと思わしき少女たちが出て来た!?


「早くその店の中へ入るんだ! そして、人を攫って奴隷にする外道は、私が斬る!」

「あ、ありがとうございます!」


 五人のドワーフたちが店の中へ入って来たところで、再びブレアが剣を振るい、馬車に乗っていたゴロツキどもを斬っていく。

 ……えーっと、本当に悪人たちの馬車だったのか。

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