第799話 再び人魚族の棲家へ

「すみません。お恥ずかしいところを……」

「アレックス様のを一晩中いただいていたなんて……羨ましい。しかも気を失っても、他の女性の所へ行かずにし続けていただけるとは……まさに天国」

「アレックス様のを思い出してしまうのは、雌として仕方がない事です。あぁ、早く村の皆にアレックス様をご紹介したいです……」


 グレイスが復活し、船を出してもらって河を下っていくのだが……ヴィクトリアとフョークラが変な話をしている。

 とりあえず、聞かなかった事にしてスルーしていると、左手に大きな森が見えてきた。


「ここは……ノーラが里帰りしているサムエルの村か」

「父上。メイリン母上経由で聞いた話ですが、ノーラ殿がそろそろ父上の所に戻りたいと言っているそうです」

「わかった。確か、ノーラとの結婚式が約二週間前か」


 今から向かうと、またモニカを迎えに行くのが遅れてしまうから、人魚族の棲家へ行った後でレヴィアに相談してみよう。

 モニーとそんな話をした後、河の流れに乗っている事もあり、あっという間に人魚族の棲家へ到着した。


「……アレックス、着いた」

「レヴィア、ありがとう。ちょっと行ってくるよ。皆は待機していて欲しい」

「……ヤダ。この奥に人魚族たちが大勢居る。どうなるか予想出来る」


 いやあの、レヴィアは何の話をしているんだ?

 込み入った話になるかもしれないので、正直待っていて欲しかったのだが、何故か全員ついて来るという。


「正直言って、ニナは待っていた方が良いと思うんだが……見ての通り、一旦水に入らないと行けないし」

「つ、冷たい水は苦手だけど、お兄さんが行くなら……そうだ。お兄さんにおんぶしてもらおー!」

「え? いや、俺でも足は着かないくらいに深い場所だから、泳いで行く事になるんだが」


 結局、俺が人魚族の棲家である洞窟の入口まで泳ぎ、そこから石壁を伸ばして桟橋みたいな物を作る事に。

 船から渡れるようにしたけど、人魚族には邪魔になりそうなので、帰る時には消しておかないとな。

 全員が洞窟に入ると、


「あなたー! 来てくれると信じていたわっ!」


 ラヴィニアが水路から現れ、大ジャンプしてきた。

 いやこれ、俺が受け止めて抱きかかえたから良いものの、もしも俺が受け止めなければ、人魚族のラヴィニアとしては大ダメージでは?


「あれ? 人魚族だー!」

「わぁ……流石はアレックス様です。人魚族の奥様もいらっしゃるなんて」

「マリーナとフョークラは初めて会うよな? 人魚族のラヴィニアだ」


 それぞれが互いに自己紹介し合うのだが……マリーナはいつも通りなのに、ラヴィニアとフョークラが何故か俺に抱きつきながら、お互いに牽制し合うかのように挨拶を交わす。

 あの、普通に挨拶してくれないだろうか。


「ラヴィニア。モニカは来ていないだろうか」

「えぇ、来ているわ。ついて来て」


 ラヴィニアが水路に戻り、俺たちの前をスイスイ泳いで行く。

 歩みの遅いマリーナとモニーを抱きかかえてついて行くと、小さな部屋の前へ。

 中に入ると、気配で察したのか、ずっとそうしていたのかは分からないが、モニカが部屋の隅に立っていた。


「モニカ、遅くなってしまってすまない」

「……アレックス殿。どうしてここに?」

「ん? どうして……と言われても、モニカは俺たちの仲間で、妻だからな。迎えに来るのは当然だ」

「つ、妻!? わ、私がアレックス殿の!?」

「あぁ。覚えて……いないのか?」


 光苔の淡い光に照らされたモニカの顔が、明らかに困惑している。

 ゲーアハルトに身体を乗っ取られたからか、セオリツヒメの浄化スキルが強力過ぎたからか、もしくはその両方か。

 モニカをこのままの状態で置いておくのは良くない気がする。


「母上! 私の事も忘れてしまったのですか!? 母上の娘、モニーです!」

「――っ!? えっ……いや、モニーはメイリン殿のスキルであって、出産とかではないと思うのだが」

「うぅ……母上。私は、悲しいです。母上は母上なのに……父上ぇぇぇっ!」


 モニーが泣きながら俺に向かって抱きついて来て……って、おい。

 どさくさに紛れてどこを触っているんだ! 顔を埋めるなっ! 匂いを嗅ぐなっ!


「モニカ殿……我がライバルだと思っていたのだが、何たる有様。見損なったぞ!」

「……誰だ?」

「ヴィクトリアだっ! モニカ殿のライバルで、これまで何度も競い合って来たではないか!」

「……?」

「えぇぃっ! ならば、この場で私がアレックス様をいただく! モニカ殿は指を咥えて見ているがいい!」


 ……って、ヴィクトリアはいきなり脱ぐなぁぁぁっ!

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