挿話139 困惑する冒険者ギルドの見習い職員ティナ

「ティナさん。北の小屋で、タバサさんという方から通話魔法で呼ばれています」


 サクラさんを幼くした女の子に呼ばれ、北の小屋へ急いで向かう。

 タバサ先輩から私に通話魔法だなんて、何だろう。

 ちゃんと報告書は出しているし……うーん。怒られる理由が思いつかないよー。


「タバサ先輩、すみません。お待たせしました」

「いえ、いいのよ。一応、確認なんだけど、アレックスさんは?」

「今は西の大陸へ行っているはずですが」

「西大陸……第四魔族領の反対側なのに、どうやって移動しているのよっ!」


 通話魔法の向こう側でタバサ先輩が叫んでいるけど、ちゃんと日誌に書いたのになー。

 竜人族のレヴィアちゃんが海竜に変身して、船を凄い速さで引いているって。

 まぁこれは私も聞いた話で、実際に自分の目で見た訳ではないんだけど。


「……こほん。エリーちゃんは、お腹にアレックスさんの赤ちゃんが居るから、安静にしているのよね?」

「はい。今は、リザードマンさんたちから貰った布を使って、赤ちゃんの服をどうするか考えておられるのではないかと」

「リザードマン!?」

「はい。あれ? 何度か日誌に書いた気がするんですが」

「そ、そうだった……わね」


 それから、モニカさんがアレックスさんに同行して西大陸に行っている事と、ステラさんは何かあった時の為にエリーさんたち……妊婦さんたちの近くに居る事、フィーネさんなら自室で色々作っているはずなので、呼べるという話をする。


「じゃあ、フィーネちゃんを呼んでもらえる? 二人から話を聞きたいの」

「わかりました。少し待っていてください」


 小屋を出ると、外で待機してくれていた女の子にフィーネさんを呼び出して欲しいとお願いした。

 この子たちは、通話魔法みたいなスキルを持っていて、一人に言えば遠くに居る女の子にも伝わるので、凄く助かっている。

 なので、少し待っていると、南の家で何かのお仕事をしていたフィーネさんがやって来た。


「お待たせしましたー! タバサ先輩、お久しぶりです!」

「フィーネちゃん、久しぶりね。そっちの暮らしはどうかしら?」

「最高です! 何より、アレックス様が凄くて、フィーネの王子様なんですっ!」

「お、王子様……ね」

「はい! 格好良いですし、強くて大きくて、何より体力が物凄くて、一晩中出し続けられるんですよっ! 凄くないですか!? フィーネはもう、アレックス様抜きで生きられません!」

「そ、そうなのね」


 そうだよねー。アレックスさんは格好良いし、魔物だって簡単に倒しちゃうし、身長も私より遥かに高い。

 だけど、フィーネさんの言う、一晩中って何だろう? アレックスさんは何を出し続けるの?

 夜に出るもの……汗とか? フィーネさんは汗フェチというか、匂いフェチなのかなー?


「……こほん。じゃあ、フィーネちゃんとティナに聞きたいんだけど、そっちの暮らしで不満とかはあるかしら?」

「はいっ! フィーネは、最近アレックス様が構ってくれない事が不満です! 時々戻ってきてくれて、その時は気絶する程凄いんですけど、帰って来る頻度がとにかく低いんです! 本当は毎日アレックス様の芳醇なアレを味わせてもらって、中に欲しいのにー!」

「……そ、そう」


 芳醇な……って言っているし、やっぱりフィーネちゃんは香りフェチなんだね。

 アレックスさんの香りかぁー。確かに近くに居るとドキドキしちゃうよねー!

 でも気絶する程凄いって何が凄いのかな?

 後でフィーネちゃんに聞いてみよっと。


「確かに、ここ最近はアレックス様がずっと別の大陸へ行っていますよね」

「だよねー! ちょっと噂で聞いた話なんだけど、ヴァレーリエさんは魔法陣で第一魔族領へ行って、そこから空を飛んでアレックス様のところへ行ったらしいの! フィーネも空を飛べるようにならないかなー!」

「そ、空? 魔法陣? というか、第一魔族領って……フィーネちゃんは何の話をしているの!?」


 おかしいなー。

 今の話も全部日誌に書いたはずなのに。

 タバサ先輩は読んでないのかなー?

 いやでも、コメントが付いて返ってきていたはずだから、タバサ先輩が忘れているだけかな。

 それから少し雑談をした後、本題に入ると言ったタバサ先輩が、私が書いた日誌の内容について、初日の分から順に私とフィーネちゃんに聞きたいそうだ。


「果樹園も畑もあるよー! 人数が多いから、土地が凄く広い場所で助かるって、アレックス様が仰っていたよー!」

「そうですよね。あれだけの人数が居ますからね。あと、森で木材が何度でも取れるのは助かりますよね」

「シェイリーさん、凄いよねー! 青龍の力で、木を生やす事が出来るもんねー」


 一番最初の果樹園や森の話についてフィーネちゃんと話していると、


「……」


 どういう訳か、タバサ先輩が無言になってしまった。

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