第888話 幼学校のお風呂
「アレックスー。どうして、脱いでくれないのー? もう、ここに居る皆は見てるし、触ってるし、飲んでるよー?」
「ここは、あくまでミオを探しにきただけだ」
「えぇーっ!? デイジー王女や、この子も興味津々なのにー!」
ミオを探す為、幼学校の風呂場へ行くと、何故か俺を除いて全員全裸になっていた。
俺たち以外に見えないとはいえ俺には見えるのだから、デイジー王女や、助けた少女まで全裸にならないでくれよ。
「あ、あの……私、幼い頃から乳母の世話になっておりましたので、お父様にすら裸は見せたことがないのです。アレックス様が、初めてのお方となります」
「いやあの、見せなくて良いですから」
「えぇっ!? 見ていただけないのですかっ!? 詳しい事は聞いておりませんが、愛する男女は裸を見せ合うものだと教わったのですが」
いやまぁ間違ってはいないんだけど、デイジー王女はいろいろと知識が不足しているし、そもそも未成年なんだ。
脱衣所にタオルがあったので、デイジー王女に身体へタオルを巻いてもらうように頼んだのだが、
「……あの、これを巻くというのは、どうやって……」
「アレックスー。相手は王女様だよー? そんなの出来る訳ないでしょ。服の脱ぎ方だって知らなくて、私が脱がせてあげたんだから」
タオルを前にデイジー王女が首を傾げ、太陰が一仕事終えたと言わんばかりに胸を張る。
というか、デイジー王女の服を脱がすなよ。
とりあえず、ミオを探すのが先だと改めて宣言し、脱衣所から広い風呂場へ。
幼い女の子たちが楽しそうにお湯を掛け合ったり、浴槽で泳いだり、まだ自分で頭が洗えないのか、少し大きな女の子に洗ってもらったり……って、ちょっと待った!
「ミオ? 何をしているんだ?」
全裸のミオが、何故か女の子の頭を洗っていたので、近付いてそっと声を掛ける。
「ん? アレックスの声が聞こえたような気がしたのじゃ……」
「のじゃおねえちゃん! つぎは、わたしのばんだよー!」
「む? はいはい、順番なのじゃ。……これ、我にお湯をかけるでない」
「のじゃおねえちゃん。おしっこー!」
「……そっちの隅で、こっそりしてしまうのじゃ。じゃが、決して湯船には……あぁぁぁっ! は、話を聞くのじゃぁぁぁっ!」
えーっと、ミオが保母さんみたいになっていた。
いや、もちろんミオが一人で全員を見ている訳ではなく、成人の女性が何人かいて、幼い子供たちの面倒を見ているのだが……これは、どうしたものか。
「アレックスー。どうしようかー? 私の力でミオの姿を消す事は出来るけど……」
「……今、ミオの姿が突然消えたら、この子供たちが大変な事になりそうなのだが」
「そう……だよね? じゃあ、子供たちがお風呂を終えるまで、私たちもお風呂に入ろうよー!」
「って、おい。だから、脱がそうと……」
ミオから離れ、風呂場の隅へ移動して太陰と共に様子を伺っていたのだが、問題が発生してしまった。
「あれー? ここになにかあるー!」
「なんにもないよー?」
「でも、あるんだもん! ほらほら、のぼれるよー!」
こんな隅に誰も来ないだろうと思っていたのに、女の子の一人が俺の脚に登り始めた。
当然、ここにいる子供たちには俺の姿が見えていないので、空を飛んでいるかのように見えてしまうはずだ。
マズい……どう見ても、ここにいる女の子たちは被害者であって、何かを企んでいる訳ではないので、変に怖がらせたくはない。
他の子供たちに注目されないように、身体を抱きかかえ、静かに床へ降ろし……脚にしがみ付いてくるっ!
「アレックスー。ここは、あのホーリーランスからのアレ砲で、全員魅了して大人しくさせた方が良いんじゃないかなー?」
「絶対にダメだろ」
という訳で、女の子が落ちないように支えながら湯船へ行き、溺れないように気を付けながら脚をお湯の中へ。
しっかり女の子が温まったら、脱衣所へ……って、まだ離れてくれないのか!?
仕方がないので、タオルで身体を拭き、髪を乾かして……どうだっ!
「あれー? いつのまにか、からだがかわいてたー!」
よし。ようやく離れてくれたな……と思っていると、
「ねぇねぇ、アレックスー! 今の、マリにもして欲しいー! マリも洗ってー!」
「いや、マリーナは自分で出来るだろ……って、違うんだ。俺たちは風呂へ入りに来たんじゃないんだーっ!」
「アレックス様。お風呂には、どのような作法で入れば良いのでしょうか。いつもメイドさんたちに入れてもらっているので、よく分からないのです」
マリーナとデイジー王女が普通に風呂へ入ろうとしていて……いや、うん。ミオが出て来るのを待たないといけないし、好きに入ってもらって良いかもしれないな。
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