第396話 呆れる事しか出来ないエリス

「あ、お兄さん。さっきは気付いた時にはお兄さんのを咥えていたけど、今回は……馬車の中に人影が見えたわ!」


 俺のをひたすら飲むカスミに代わり、分身が状況を解説してくれる。


「――っ! 何かされたみたいだけど……お兄さんのを飲んでいるから平気ねっ! このままあの人影を……あ、逃げた! しかも馬車を捨てて馬で……流石にこれは追いかけられないか。このカスミちゃんが、こうもしてやられるなんて……これは徹底的にお仕置きが必要ね」


 カスミの分身によると、何かの攻撃が効いていないと分かった途端に、馬車を置いて逃げたらしい。

 一先ず、何かないか馬車の中を探してみたが、何も無いそうだ。


「初めから俺たちのあとをつける事が目的だったのか? ……あ、それより追跡が不可能で調査も終わるのなら、分身を解除したらどうだ?」

「分身を解除しても、もう少し続けてくれるのなら……あ、今ならもうお兄さんが本気を出して良いわよー」

「いや、あれは緊急事態だったからな。それに、凄い量を飲んでいるだろうし、そろそろ終わろう」

「じゃあ、あと少し! もう少しだけ~~~~っ!」


 カスミが声にならない声を上げ、分身が消えたので、俺も複製スキルを解除し、衣服を整える……って、二体の分身を襲うのはやめような。


「……って、カスミっ! 向こうの……子供たちの場所に乗っている乗客を何とかしてくれっ! 止める気がなさそうだし、さっきよりも凄い事になっているんだが!」

「え……無理よぉ。善意で協力してくれたのに。それに、お兄さんが本気を出した時に、向こうの乗客が全員……こほん。という訳で、こっちも続けましょうよー」

「いや、それもダメ過ぎるっ!」


 エリラド行きの馬車に乗って居た方々には謝罪に行かなければ。


「あ、お父さん。私の事なら気にしないでー。何も見てないから、お父さんたちの好きにしてね」


 あぁぁぁ、色々あってエリスの事をすっかり失念していた。

 結局、カスミの分身が馬車を走らせ、ウラヤンカダの村へ向かうのだが、その馬車の中が……大変な事に。

 とりあえず、女性たちを村へ送り届けたら、一度カレラドとエリラドの街へ戻る必要があるな。

 そんな事を考えながら、暫く女性たちと過ごしていると、大きな壁が見えてきて……目的地の村に近づいて来た。


「誰……って、お母さん!? それに、アレックス様も! うわ……いいなぁ! 私も混ぜてよーっ!」

「おい、ナズナ!? 問答無用で服を脱ぐなぁぁぁっ!」

「ナズナちゃんも、良かったわねー。せっかくだから、ここで少し止まりましょうか」


 いや、何でだよ!

 もう目の前が村だ……って、あれ? 凄い速さで何かが近付いてて来る!?


「アレックスーっ! ズルいんよーっ! ウチもするんよーっ!」

「アレックス、帰ってくるの遅い。レヴィアたんが満足するまでしなきゃダメ!」


 ヴァレーリエとレヴィアが混ざり、暫くして村へ到着すると、リディアにネーヴとソフィ……いや、ミオやドロシーに、メイドさんたちも現れ、村の中が大変な事に。


「ストップ! せめて屋内に……あと、エリスは見ちゃダメだぁぁぁっ!」

「いやー、お父さん。流石ですよね。これ、何人居るんですか? というか、馬車の中で延々してたのに……あ、家には入らない方が良いんじゃないかな? 物凄く汚れそうだし」


 エリスが呆れているが、三体の分身が別行動をしていて、ここに居るのは俺を含めて九人で……まさかそれで足りないとは。


「……って、俺も混ざっている場合ではなかった! エリラドの街へ行かなければ!」

「ご主人様ー! そんな事言わずに、私にもお願いしますっ!」

「え!? モニカ!? どうしてここに!? ……って、帰還スキルで戻って来たのか」

「はい! ですから、早く私にも……」

「……そうだな。よし、モニカ。帰還スキルを使ってくれ」

「んっ……も、もっと堪能したいですぅ」


 帰還スキルで魔族領の家に戻り、そこからマミたちにエリラドの街へ連れて行ってもらおうと思ったのだが、モニカがスキルを使ってくれない。


「……一度満足したら帰還スキルを使ってくれるのか?」

「はい! ですから、もっと……」

「わかった。分身ではなく、俺の全力を出そう」

「え!? ……おほぉぉぉっ! ~~~~っ! ご、ご主じ……あひぃぃぃっ!」


 普段は腰が痛くなるので控え目にしているが、後先を考えない本気の突きで……あ、あれ? モニカ!? モニカーっ!?

 気を失わずに、帰還スキルを使ってくれよっ!

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