第875話 怪盗フォークの七つ道具

「うーん。何故か、この女性たちの体内から、アレックス様の魔力を僅かに感じます。アレックスさん。ここにいる女性たちは、皆知らない人たちですよね?」

「あぁ、その通りだ」


 フョークラが近くにいた女の子を調べ、不思議そうに首を傾げる。

 幼い子供だからフョークラが軽く防げているけど、他の女性に近付かれるのはマズい。

 勿論、俺が手を出せば突破出来るが、魅了状態に近く、敵意がない女性を吹き飛ばすのはちょっとな。


「仕方がありませんね。ひとまずここは、怪盗フォークが一肌脱ぎましょう」


 そう言って、フョークラが仮面を被る。

 今まで思いっきり顔を晒していたし、この囲まれた状態で仮面を被る意味があるかは不明だが……それはさておき、胸元から何かを取り出した。


「フョークラ!? まさか爆弾か!? 子供も居るんだぞ!?」

「アレックス様。私は怪盗フォークです! あと、今回は……こちらですっ!」


 そう言って、フョークラが何かを噴霧する。

 マリーナが慌てて仮面を被ったので……って、いろいろダメじゃないか!?

 これが何の薬かは分からないが、余程強力な状態異常でなければ、俺には効かない。

 なので、先程フョークラがペタペタ触っていた女の子を抱きかかえ、俺の仮面を顔に当てる。

 流石に謎の薬を子供に嗅がせる訳にはいかないからな。

 そう思っての行動だが、フョークラが謎の薬を噴霧し終えると、周囲の女性たちがパタパタと倒れていく。


「おい、フョークラ……」

「ですから、怪盗フォークですよー。あと、先程の薬は怪盗七つ道具の一つ、睡眠薬です。副作用もなく、安心安全でエッチな事をしてもバレないダークエルフのお薬なので、大丈夫ですよ」

「……思いっきり、顔から地面に倒れている少女がいるんだが」

「まぁそれは運が悪かったという事で。それより、一旦この場を離れますが……その子も連れて行きましょうか。助けてしまいましたし」


 仕方ないですねー……と、フョークラに呆れられながら、先へ進む事に。

 ……いや、俺が悪いのだろうか。


「んー! お兄ちゃん、好きー!」

「うんうん。分かるよー。じゃあ、マリがもっとアレックスの事を好きになる方法を教えてあげるねー!」

「マリーナさん。人間族の幼女にアレックス様のは無理です。飲むまでに留めましょう」


 いや、マリーナとフョークラは何の話をしているんだ!?

 ひとまず仮面を回収し、女の子とマリーナを抱きかかえて足早に進んでいると、不意にフョークラが首をひねる。


「うーん。やはり、おかしいです。やはり、その幼女から僅かにアレックス様の魔力を感じるんですよねー。……実は娘さんとか?」

「いや、違うから。メイリンのスキルで生み出されたモニーたちなら娘だが」

「でも、体内に……アレックス様のアレを飲んだかのような魔力を感じるんですよー」


 いや、そんなものを飲ませる訳が……あっ! そういえば、太陰との戦いの中で、街の上空でアレが飛び散ったような気がする。


「……えっと、もしかして空から何か降ってきたりしただろうか」

「うん! あのね、凄く良い香りのする白い蜜が降ってきたんだー! 美味しそうだからペロって舐めたら、とっても甘かったのー!」

「アレックス様。間違いなくアレだと思うのですが、空から……というのは、どういう事ですか?」


 不思議そうにしているフョークラへ先程の話をすると、


「なるほど。そういう事でしたか。アレを飲んで魅了状態という事は、アレックス様から離れれば元に戻るかと。アレックス様の存在を近くに感じると、魅了状態になるので」

「わかった。では、ミオたちと合流した後にでも、先程の場所へ送り届けようか」


 意外に簡単な解決方法を教えてくれた。

 とはいえ、聖槍の思わぬ作用に溜息を吐いていると、女の子が大きな瞳でジッと見つめてくる。


「どうかしたのか?」

「お兄ちゃんと離れ離れになっちゃうのー?」

「あぁ。だが、君も家に帰りたいだろ?」

「ううん。お家なんてないもん。だから、お兄ちゃんと一緒にいるのー!」


 改めて女の子に抱きつかれ……どうすれば良いのだろうか。

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