第778話 モニカの倒し方

 モニカが姿の無い魔族に身体を乗っ取られた。

 白虎の時のように、セオリツヒメから貰ったスキルを使えば良さそうなのだが、連続で使用する事が出来ない。


「……あー、この女を助けに来たところでカウンターを決めてやるつもりだったが、まぁいい。俺は魔王様配下の四天王、火のゲーアハルトだ」

「そうか。俺はアレックスという。モニカの身体を返してもらうぞ」


 全裸のモニカの姿をしたゲーアハルトが、鎧と一緒に床に落としていたモニカの剣を拾う。


「お前は火に強いようだが、俺は剣も得意でな。久々に見せてやろう!」


 そう言ってゲーアハルトが高く跳ぶと、三連撃を放ってきた。

 盾で防ぐが、いつの間かゲーアハルトが横に回り込んでいて、鋭い突きが繰り出される。

 俺はそれをしゃがんで避け、そのまま足払いを……


「くっ!」

「お兄さんっ!? 大丈夫っ!?」

「ふっ、やはり仲間は攻撃出来ぬか。甘い甘い甘い! このまま切り刻んでやろう!」


 モニカの足を払えず、中途半端にしゃがんだ俺の頭に剣が振り下ろされ、咄嗟に避けたものの、鎧の隙間を斬られてしまった。

 あの瞬間に狭い隙間を斬るとは……自分で言うだけあって、剣の腕は俺やモニカよりも上のようだ。


「≪ミドル・ヒール≫」

「なるほど。治癒魔法が使えるという訳か。とはいえ、お前たち人間は魔力が少ない。治癒魔法が使えなくなるまで切り刻むだけだ」


 ふむ。身体は乗っ取るが、知識まで得る訳ではないようだ。

 モニカなら、パラディンである俺は魔力が非常に多く、自然回復する事も知っているからな。

 ただ、あの聖水の効果が有効であった事から、モニカのスキルもそのまま使えると思って良いだろう。

 ……万が一、転移スキルが使われたら最悪だ。人魚族の村が危険な事になってしまう。


「≪閉鎖≫」


 ミオがゲーアハルトを結界で閉じ込めるが、


「ふんっ! そんな結界如きで、俺が封じれるかっ!」


 ゲーアハルトが剣を高く掲げただけで、ミオの結界が砕け散った。


「むう。流石は白虎を操る程の力を持つだけはあるのじゃ」

「しかし……どうするよ。奴を倒す事はモニカを殺す事と同義だろ?」

「おそらく、そうですの。そして、あのゲーアハルトはモニカさんの身体を捨て、他の誰かに乗り移ってしまいますの」


 ミオ、ザシャ、シアーシャの三人とも、ゲーアハルトがモニカの身体なので、手を出せない。

 モニカが瀕死になったら、その身体を抜け……って、待てよ。

 だったら、どうして白虎は生きているんだ?

 魔族は白虎たちが邪魔なんだよな?

 それなら、白虎の身体を乗っ取っている時に自害すれば良かったのに……いや、そういう事か!


「なるほど。お前は自分の意思で憑依先を変えられないのか。そして、憑依している者が死ねば、そのまま死ぬ。たがら、いきなり攻撃せずに、様子見していたんだろう?」

「……だったら、何だ。尊い犠牲として、この女を殺すのか? 出来ないよなぁ?」

「いや、モニカは助ける。そして、お前も倒す」

「はっ! 面白い! 一体、どうするつもりなんだ? お前は水魔法で俺の憑依を解除出来るみたいだが、それじゃあ俺は倒せねぇぜ。別の誰かに乗り移るだけだ」


 そう言って、ゲーアハルトが再び斬撃を放ってくる。

 俺は剣と盾でその攻撃を防ぎ、ジリジリと下がっていく。


「あん? どうした! 俺を倒すんだろ? まさか、この女が疲れるまで待つつもりか? 残念だが、俺はこの女を強制的に動かすだけだ。眠ろうが、糞尿を垂れ流そうが、関係無いんだよ」

「……いや、そうかな? 今の発言で、お前を倒す方法を思いついたぞ?」

「はっはっは。やれるもんなら……やってみろっ!」


 少し距離を取ったゲーアハルトが、無詠唱で巨大な火の弾を放ってきた。

 俺には効かないのだが、目くらましのつもりか、その火炎弾の陰に隠れてゲーアハルトが近付いて来る。

 おそらくゲーアハルトは、俺が熱に強い……くらいに思っているのだろうが、俺に炎は一切効かない。

 だから、避ける事無くそのまま正面からぶつかり、炎を通り過ぎた後で、剣を盾で受け止める。


「なっ!? 俺の炎を……」

「これで、終わりだ! 俺のスキルを見せてやる! ……ゴッドハンド!」

「剣を鞘に? 何をする気だ……くっ! や、やめろっ! 気持ち悪いっ!」


 ゲーアハルトの剣を盾で封じると、俺は自身の剣を鞘に納め……全裸のモニカを空いた手で弄り倒す事にした。

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