第13章 新たな可能性が開いたスローライフ
第544話 西の海を目指して
玄武の居場所の手掛かりを得るため、人魚族が引っ越した先――西の海へ向かって出発する事にした。
ラヴィニア、プルム、ミオ、ユーリが船に乗り、海竜の姿となったレヴィアに引いてもらう。
ちなみに、ラヴィニアは本当の名前がアマンダだと判明したが、これまで通りラヴィニアと呼んで欲しいそうだ。
「あなたからは、ずっとラヴィニアと呼んでいただいていますから。今の私にとって最も大切なのは、あなたとの思い出ですし」
「わかった。ラヴィニアがそう望むなら、このままにしよう」
そう言ってラヴィニアに抱きつかれていると、変身前のレヴィアがジト目でこっちを見ていた。
「……ところで、アレックス。西の海って、どこまで行けば良い? 西の大陸?」
「西の大陸って、第四魔族領から北の大陸へ来た時のように、凄い距離だよな? 人魚族はそんなところまで移動出来るのか?」
「んー、ところどころで休憩を取りながら、時間を掛ければもちろん行けるでしょうけど、あの場所に住んで居た全員でそんなに遠くまで移動しないと思います」
まぁそうだよな。
竜人族で海竜になれるレヴィアの泳ぎが速過ぎて、大陸の移動があっという間だったけど、それでも数日かかっている。
ラヴィニアも俺たち人間よりは当然泳ぐのは速いが、レヴィア程ではない。
西の海というのは、今居る岬から西にある近場の海だと予想出来る。
「ひとまず、この岬から西へ行ってみよう。レヴィア、悪いが陸地沿いに泳いでもらう事は可能だろうか」
「深さがあれば問題無い。浅いところは無理だけど、この大陸は崖ばかりだから、きっと大丈夫」
「すまないな。ラヴィニアは、人魚族が住んで居そうな場所はわかるだろうか?」
ラヴィニアに聞いてみると、少し考え、水面に入口がある洞窟だという事を教えてくれた。
おそらく、あの大きな河にあった、水車が水を取り込んでいたような洞窟だろう。
人魚族は水中を移動するから、洞窟内にも水が無いとダメだろうしな。
「よし。じゃあ、出発だ。俺たちは船の上から水面近くの洞窟を探そう」
俺の言葉でレヴィアが海に入り、巨大な海竜へ姿を変える。
船に繋がる鎖を引き、グンッっと船が動き出した。
灯台のある岬を西へ行くと、大きな弧を描いた湾になっている。
レヴィアが、その湾に沿って泳いでくれるので、皆で目を凝らして水面を見て……まぁこんな近くには無いか。
とはいえ、かなり大きな湾なのだが、結局何も見つからないまま湾を抜け、真っすぐ西へ。
「うーん。玄武の社は北の大陸の最北端にあるという話だったが、さっきの岬より北となる場所は無さそうだな」
「そうですね。見た感じ、緩やかに南西に向かっているように見えますね」
「となると、先程の灯台近辺で俺たちが何か見落としているのか、ラーヴァ・ゴーレムから聞いた話が間違っていたのか……どっちか判断出来ないな」
暫くレヴィアが泳いでくれたけど、特にこれと言った物が見つからずに、陽が落ちて来た。
「あなた。そろそろ、船を何処かへ留める準備をした方が良いのではないかしら」
「そうだな。ニースがララムバ村に居るし、俺一人で崖を掘らないといけないからな」
ラヴィニアの言う通りなので、レヴィアに言って適当なところで止まってもらおうとしたところで、プルムから待ったが掛かる。
「お兄さん。あっち……島があるよー? あそこなら、そのまま上陸出来るんじゃないかなー?」
「おぉ、本当だ! レヴィア、すまないが右手に見える島へ上陸を頼む」
「あなた。レヴィアさんの大きさだと、近くまでしか行けないと思うから、途中で私が代わるわね」
どうやら、風の四天王とやらは、大陸だけ持ち上げ、周辺の島はそのままにしておいたようだな。
しかし、島と言ってもそれなりの広さはあるみたいなので、人が住んで居たりするのではないだろうか。
そんな事を考えていると、浅いところまで来たらしく、ラヴィニアと交代したレヴィアが船の上へ。
「アレックス。レヴィアたん、頑張った。ご褒美」
「……あー、うん。とりあえず、船を着けるまで待とうな」
「じゃあ、ラヴィニアが戻ってきたら、すぐ?」
「えーっと、島の安全を確かめてからかな」
「……ミオが結界を張れば問題無い」
「いや、島に人が居るかもしれないじゃないか」
「一緒に混ざってもらって構わない」
レヴィアが俺に抱きつき……というか、しがみ付きながらそんな事を言って来るけど、それはそれで問題だからな?
相手が女性だとマズいし、男性だったら、それはそれでどうするんだ。
あと、レヴィアに便乗してプルムも抱きついて来て……とりあえず二人を宥めながら、ラヴィニアを待つ事にした。
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