第636話 綺麗にしたレヴィア
分身を解除し、結衣を宥め……村まで歩いて来ると、最初に見つけた男性に声を掛ける。
「すまない。ここは何という村だろうか」
「ん? 兄ちゃんたちは旅人か? ここはクーバー村っていうだけど……南から来なかったか? ここから南には何も無いはずなんだが」
「あー、ちょっと道に迷ってしまって」
「おいおい、女連れだし気を付けろよ? この辺りは魔物が多いんだからさ」
男性が眉を潜めて俺たちを見てきたが、魔物なんて一度も遭遇しなかったのだが。
まぁ全力で走って来たからかもしれないが。
「ところで、ララムバ村という村を知らないだろうか」
「あー、それなら二つ隣の村だな。距離は大した事がないから歩いて行けるんだが……あまりお勧めはしないかな」
「というと?」
「いや、途中にゴブリン共に占拠されてしまった村があるんだ。だが、最近その村が原因不明の崖崩れで崩壊しちまってな。ゴブリンが殲滅されたのは良い事なんだが、地震があった訳でもないのに村が消えてなくなるなんてヤバいだろ? 近付かない方が良いぜ」
ゴブリンに占拠された村。
原因不明の崖崩れで崩壊。
……うん。俺が岩を投げて破壊し、レヴィアが水魔法で跡形もなく消滅させた村の事か。
という事は、あの河の近くという事だな。
「わかった、ありがとう。ちなみに、そのゴブリンの村があったっていう場所には、どう行けば良いんだ?」
「え!? 兄ちゃん、オラの話を聞いていたのか? ここから北西に向かって行けば、その村にはすぐ着くが……どうなっても知らないぞ?」
一先ず村人に礼を言うと、村に入らず村の周りを通って、村の反対側へ向かう。
「アレックス。どうして、村の中を通らず、外を回るのじゃ?」
「いや、また魅了スキルで大変な事になっても困るだろ?」
「だが、アレックスはランランに魅了スキルを封印してもらっておるのじゃ。大丈夫ではないか?」
「あ……確かに」
ミオに言われてようやく気付いたが、ランランに魅了スキルを封印してもらっているので、村の中を通っても問題なかったのか。
ま、まぁ念には念を……という事で、誰も大変な事にならなったので良しとしよう。
それから少し歩くと、唐突に下り坂が現れ、降りた先が大きな河になっていた。
「ここは……レヴィアが破壊した場所か」
「……魔物の跡形なし。うん、綺麗にした」
「いやまぁ、綺麗にはなっているけど……村を消滅させるレヴィアの魔法は、改めてヤバいな」
改めてレヴィアの力が凄いと思いつつ、そのまま坂を下りて、河へ。
「グレイス。船を出してくれるか」
「わかりました。≪空間収納≫」
おぉ……頭では分かっているつもりだったけど、こうして目の前で船が現れるのを見ると、やはり空間収納魔法は凄いな。
まぁ天后のスキルで船ごと転移出来るので、突然現れる船は見ていると言えば、見ているんだけどさ。
「レヴィア。悪いが船を引いてくれないだろうか。ここから河を登れば、ララムバ村まではすぐのはずだ」
「……わかった」
そう言って、レヴィアが河の中へ入ろうとしたところで、
「アレックス様ぁぁぁっ!」
どこからともなく、俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
その直後、河の対岸から何かが飛んで来る!
凄い速度で滑空してきた何かが、空中で急停止し、ゆっくりと俺の胸に飛び込んで来た。
「アレックス様! お会いできて嬉しいですっ!」
「君は……キアラ!?」
「はいっ! その通りですっ! 突然すみません。お姿をお見掛けして、居てもたっても居られず、文字通り飛んで来てしまいました」
ムササビ耳族の少女で、俺にマントをくれた少女が目を輝かせて見つめてくる。
「キアラ、ズルい! 私もアレックス様にくっつきたいのに!」
「そうだよー! 突然飛んで行っちゃったから、ビックリしたじゃない!」
「えへへ、ごめん。けど、アレックス様にお会い出来たから、いいよね?」
更にキアラの友人だというムササビ耳族の少女二人が現れた。
……うん。三人ともちゃんと覚えている。
要は責任を取らなければならない相手だと。
そして、
「アレックス様……ずっと、ずっとお会いしたかったのです! もう我慢出来なくて……」
「さて、アレックスよ。これはもう分身するしかないのじゃ」
キアラが目にハートを浮かべて見つめてきて……ミオから言われた通り、分身する事になってしまった。
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