挿話135 冒険者ギルドの職員タバサ
オーブリーさんが、魔族を倒したらエクストラスキルを得たと言ってきた。
ギルドマスターですら、聞いた事があるという噂レベルの眉唾ものの話なのに、実在するというの!?
突拍子もない話で困惑していると、ギルドマスターがやって来た。
「タバサ。オーブリーが魔族を倒したんだって?」
「は、はい。ただ、倒した後に塵のように消えてしまったという話で、討伐証明できる部位は無いそうですが」
「そうか。まぁオーブリーは、何処かのバカとは違って変な嘘は吐かないだろう。信じて良いんじゃないのか?」
「えぇ。オーブリーさんの報告は信じて良いかと思っています」
同じ勇者でもローランドさんは本当にダメな人だったけど、オーブリーさんは誠実だし、大丈夫でしょ。
まぁ行方不明で、既に亡くなっていると言われる人を引き合いに出すのは良くないから、これ以上は考えないけど。
「あと、そのオーブリーさんがエクストラスキルを授かったと言っていたのですが」
「ほぉ。流石の俺もエクストラスキル――神のスキルを授かったと言う者には出会った事がないな。オーブリーは今何処にいるんだ?」
「王都です。本部での調査協力を依頼しました。その後は、神殿の申請で南大陸へ行く予定です」
「そうか。神殿が弱体化し、冒険者ギルドで神のスキルを調べられるようになったからか。今までは中央神殿が秘匿にしていたからな」
そう言って、ギルドマスターがうんうんと頷く。
一人で何か納得しているけど、どういう事なのかしら?
「あの、ギルドマスター。今のはどういう意味なのでしょうか」
「ん? そのままの意味だ。中央神殿が世界中の勇者を管理しているだろ? で、魔族を倒す奴なんて、大半が勇者だ。魔族を倒した時にどんな物が得られたり、魔族の持ち物がどういうものだったり……と、我々が知っておくべき事は沢山あるのに、中央神殿が共有しないからな」
「そうなんですね……」
「あぁ。だから、魔族を倒すという危険な行為の見返りがかなり大きいのではないか……と考えている者が多いのだが、それが神のスキルだったと確証が得られたというわけだ」
なるほど。噂レベルだった神のスキルが、オーブリーさんのおかげで事実だと認識されたと。
「そういえば、前にアレックスが神のスキルを得たと言っていた……って、報告してきたよな? アイツは嘘を吐くような奴じゃないし、アレックスの話も本当なんじゃないか?」
「うぐ……や、やっぱり、そうなりますよね」
「ん? どうしたんだ? 何か、苦虫を噛み潰したような顔になっているぞ?」
「じ、実は、ティナの報告書の内容が突拍子もなくて、スルーしていたんですけど、エクストラスキルの話だったり、エルフや竜人族が居るなんて書かれていまして」
「……とりあえず、見せてくれ」
ギルドマスターに言われ、今まで送られてきていたティナの報告書を提出する。
「……これは、確かに信じられない事ばかりが書かれているな」
「そうですよね。青龍とか玄武とか。牛が獣人になったと書かれている事もありましたし」
「ただ、黒髪の一族のスキルか……」
「何か御存知なんですか? 書かれている事は無茶苦茶ですけど。対象の人物を若くした人形を作りだすなんて、本当だとしたら脅威でしかありませんが」
「……そうだな。脅威になるな」
どうしたんだろう。
ティナの報告書に書かれた、黒髪の女性のスキルについて読み始めたところで、ギルドマスターの表情が険しくなった。
もしもこれがギルドマスター級の人たちしか知らないような話なのだとしたら、今まで荒唐無稽な事ばかり書かれていると思っていたけど、ティナの報告書が真実だという事になる。
だとすると、アレックスさんはとんでもない存在になっているのでは!?
「……タバサ。このティナの報告書の内容は、絶対に口外するな」
「えっ!? は、はい。わかりました」
「一旦、本部と相談するが……もしかしたら、調査チームを派遣する事になるかもしれん」
「そうですね。ティナの報告書だけでは何とも……」
「もしかしたら、オーブリーを向かわせる事になるかもな……」
ギルドマスターがポツリと呟きながら、どこかへ……オーブリーさんを第四魔族領へ向かわせるのは、信頼出来るからですよね?
ゆ、勇者の力とかは関係ないですよね!?
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