第157話 圧勝

「えーっと、アレックスさん。非常に申し訳ないのですが、そちらの獣人族の方と他の方とで交代していただく事は出来ないでしょうか」


 ミオが結界を張った後、ヨハンナさんに頭を下げられメンバーチェンジとなった。

 まぁ、そうなるか。

 力を見る……と言いながら、結界を張った時点で終わりだからな。


「むぅ……我はまだ何もしていないのじゃ。結界スキルを使っただけなのじゃ」

「それはそうなんだが、今回のルールとは相性が悪いというか、良過ぎるというか……天使族が困っているからな」

「仕方が無いのじゃ。では誰かに譲るとするのじゃが……誰と替われば良いのじゃ?」


 ミオは元々指名されたレイに代わってメンバーに入ったのだが、そのレイに戦闘は無理だ。

 涙目で大きく首を横に振っている。

 となると、戦闘職に入ってもらう事になるのだが、必然的にエリーか。

 しかし、エリーはリディアと共に大量の料理を作ってもらい、疲れているだろう。

 出来れば、エリーとリディアには休んでもらいたい。

 ……メンバーは、ゴレムスやシーサーでも良いのだろうか。いや、普通に考えたらダメだろうな。


「マスター。では、僭越ながら私が」

「ソフィ……ありがたいが、くれぐれも無茶はするなよ?」

「はい、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」


 どうしようかと考えて居たら、ソフィが名乗り出てくれたので、ミオと交代してもらう。

 ただ、ソフィに正しく伝わっているのだろうか。

 俺が無茶をするなと言ったのは、以前にシーサーが放った魔導砲とかいう白い砲撃を使うなよ……という意味なのだが。

 ソフィが本気で攻撃すると、俺だって防げるかどうか怪しいからな。

 そんな事を思いながら、仕切り直しで再度戦いが始まる。


「では、いきます」


 一度目の時と同じ様に、ヨハンナさんが石を投げ、地面に……落ちた!

 その直後、俺の真横を一筋の白い光が通過していく。


「今のは警告です。これ以上近付くと、次は命中させます」

「あ、あばばば……」

「や、槍が……槍が一瞬で消えた」


 いや、大丈夫って言ったのに!

 危惧していた事が、即起こってしまい、天使族の女性たちが怯えまくっている。


「ソフィ。とりあえず今の攻撃はやめておこうな」

「畏まりました。武器破壊を目的とした警告ではなく、即敵への攻撃といたします」

「違ーうっ! するなよ? 絶対にさっきの攻撃を天使後に命中させるなよ?」

「マスター。それは、いわゆる振りですね? では早速……」

「するなーっ!」


 とりあえず、ソフィを止め、


「あの、もう俺一人でも良いか?」


 天使族たちに聞いてみると、全員が無言で何度も頷く。

 ……ただ、持っていた槍を消された天使族の女性がへなへなとその場に崩れ落ち、地面に女の子座りになったかと思うと、突然謎の水溜りが出現したが。


 何故か戦う場所を少し変えられ、天使族の副隊長だというルーシアさんと俺が一対一で戦う事に。

 これまで同様にヨハンナさんが石を投げ、地面に落ちると、槍を構えたルーシアさんが俺から距離を取り、真正面から突撃してきた。

 だが……軽い。

 盾を構えた俺にぶつかってきたルーシアさんの攻撃は、スピードは凄いものの、それだけだ。

 俺の構えた盾に弾かれ、ルーシアさんの方が地面に倒れる。


「……は? いや、さっきの結界は無しという話になったのでは?」

「む? 我の結界は解いておるのじゃ。単純にアレックスへ攻撃が通じていないだけなのじゃ」

「そうだな。俺も特にスキルは使っていないぞ」


 困惑するルーシアさんに、ミオと俺が答えると、暫く似たような攻撃を繰り返され、


「うぅ……私、副隊長なのに。最強の戦乙女なのにーっ!」


 半泣きになりながら、無茶苦茶な力任せの攻撃が続く。

 だが、フェイントも何も無い、ただの力押し……おそらく天使族は空が飛べる事から、上空からのヒットアンドアウェイが主体の戦い方だったのだろう。

 だが、速いだけの直線的な動きは見切り易く、攻撃が軽い事もあって、俺には届かない。

 その結果、


「時間経過により、アレックスさんの勝ちとします。そして、天使族の習わしにより、勝者アレックスと妻ユーディットが正式に夫婦となる事を承認し、祝福します」

「アレックスーっ! 勝ってくれてありがとーっ!」


 ヨハンナさんから勝利を告げられ、すぐにユーディットが飛んで来る。


「あのね……ママから、アレックスが勝ったら、二人目の子供を作りなさいって。天使族の皆も手伝ってくれるらしいから、皆で作ろーっ!」


 ……はい? ちょっと、待ってくれ。

 というか、ヨハンナさんは娘に何を言っているんだっ!?

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