第740話 レミの知的好奇心

 天后のスキルで、西大陸の南端へ。

 砂地だが、俺はディアナのスキルで普通に歩けるので、分身と共に馬車を持ち上げてスタスタ歩いて行く。


「お兄さん。この乗り物って馬車……だよね?」

「あぁ、そうだが……ニナ。どうかしたのか?」

「え? えーっと、馬車って一体何だったっけーって思って」


 ニナは一体、どうしたのだろうか。

 馬車は馬が引く乗り物で、普通にありふれた物だし、第四魔族領でも……あぁ、そうか。

 第四魔族領では馬ではなく、ゴレイムが引いていたな。

 まぁあれはそもそも馬車ではなく、荷車だが。


「ニナさん。深く考えたら、アレックス様と一緒に旅は出来ませんよ」

「グレイスさん? そ、そうなの?」

「えぇ。普通に考えて、生身でブラックドラゴンを倒したり、ほぼ徒歩で西大陸を縦断したり……ふと我に返ると、とんでもない事をされている方だなって思ってしまいます」


 馬車の中でニナとグレイスが何か話しているが……そうか。ドワーフの国は地下にあるから、馬車がないのか。

 だから、グレイスがニナに馬車というものが何か説明してくれているのだろう。


「ふわぁぁぁっ! 凄い! 見た事が無い植物や! おとん! ちょっとだけ採取してもええかな?」

「レミ? まぁ構わないが、かなり暑いぞ?」

「平気平気。それよりも、こない過酷な砂漠で生きている、生命力のある植物の方が気になるやん?」

「そういうものなのか? とりあえず、近くまで行くから待ってくれ」


 レミにお願いされ、サボテンみたいな植物の近くで止まり、馬車を降ろす。


「ほな、ちょっと行って来るわー! ……って、直射日光暑っ!」

「まぁ砂漠だからな」

「なるほど。おとん……後でウチが預けた荷物をもろてもえーかな?」

「それは構わないが……」

「オッケー! ほな、とりあえずこの植物の採取やな」


 そう言って、レミが植物の一部分を切り取って、大事に小さな箱の中に入れている。

 俺にはさっぱり分からないが、薬師としていろいろ思うところがあるのだろう。

 少ししてレミが馬車の中に戻って来たので、第四魔族領を出発する前に、レミから空間収納に格納しておいて欲しいと言われたカバンを取り出す。


「おとん、ありがとー! ウチはちょっと作業があるから、後は皆で好きに乳繰り合ってえぇよ。ウチの事は気にせんといてー」

「乳繰り合う……?」

「ようは、ウチの事は気にせず、みんなで子作りしててえぇよって事。ほな、ちょっとウチは集中するなー」


 そう言って、レミが馬車の端の方で何かを始めた。

 おそらく何らかの薬を作ろうとしているのだろうが……とりあえず、精力剤の生成は禁止だからな?


「ご主人様。レミ殿もあぁ言っている事ですし、我々は早速……」

「そうだな。早速出発するか」

「いえ、そうではなくて、分身を……」

「白虎救出が優先だ。出発する」

「えぇぇーっ!」


 モニカの言葉をスルーし、スタスタと馬車を持ち上げて歩いて行くと、街が見えてきた。

 だが、まだ昼食には早いし、西大陸の貨幣を殆ど持っていない為、第四魔族領で大量に持ってきた作物などを売るところから始めないといけないので、スルーしようかと思ったのだが、


「あっ! おとん! あの砂漠の中にある街に寄って欲しいねん!」

「えっ!? 今じゃないとダメなのか?」

「そう! 今やないとアカンねん! この暑い砂漠の街やからこそ、行くべきなんや!」


 うーん。これが徒歩だったら、シアーシャを休ませる為に行っても良かったが、馬車の中でザシャの闇に包まれているシアーシャは、まだまだ元気そうなんだよな。


「おとん。決してこれは悪い話やないねん。この西の大陸での旅をスムーズにする為に必要な事なんや」

「レミがそうまで言うなら……皆、少し街に寄っても構わないだろうか」


 馬車の中に居る者たちに確認し、誰からも反対がなかったので、進路を少し変えて街へ向かう。

 土で出来た壁に囲まれた街なので、壁の外に馬車を止め、ミオに結界を張ってもらい、分身を解除した俺と、レミで街へ行く事に。


「ご主人様! せめて……せめて分身を!」

「いや、そんな事をしたら街中で大変な事になるだろ」

「ですが……」


 またもやモニカをスルーし、レナのカバンを空間収納に格納して、二人で街の中へ入った。

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